人類史にソーシャル時代という新たなページを加えたイノベーター企業、フェイスブック。同社はイノベーションを促進するために、何を重視しているのだろうか。同社デザイン・ディレクターのケイト・アロノウィッツによれば、プロトタイピング、モバイル戦略、職場環境であるという。本誌2013年12月号(11月9日発売)の特集、「理想の会社」の関連記事第5回。


 ソーシャル・ネットワーキング・サービスの最大手、フェイスブックをめぐるニュースの見出しは、日々頻繁に、ドラマチックに変わっていく。その様はまるで、十代の女の子がフェイスブックで行うステータスの更新のようだ。

 しかしフェイスブックのある重要な部分については、滅多に語られることはない。それは社内のイノベーション文化である。これほど若い組織が、どのようにこれほど注目を集め、莫大な数のユーザーを獲得しているのか(人々が同社の製品やプライバシーポリシーを“いいね”と思っているかどうか、あるいは同社の株価がいかに不安定かはさておき)。これは大手企業の幹部も新興企業も一様に知りたがっている、調査に値するテーマであるのは間違いない。

 本日フェイスブックは、主要製品の1つであるニュースフィードのデザインへの大きな変更を発表する予定だ(本記事執筆時の2013年3月7日現在)。これらの変更に先立ち、私はフェイスブックのデザイン・ディレクターであるケイト・アロノウィッツにインタビューする機会を得た。彼女はオンラインにおけるビジネスのあり方を変えたシリコンバレーの2つの大手企業、リンクトインとイーベイの幹部も務めたベテランである(両社でもデザインを担当)。私は彼女に、フェイスブックがどのようにして創造性とコラボレーションを促進しているのか、理念と慣行の両面から教えてほしいとお願いした。

 今回のインタビューで彼女は、フェイスブックが現在実践しているイノベーションの秘訣を明かし、HBRだけに語ってくれた。

1.経営幹部を含む全員に、「つくって学ぶ」よう促す
 アロノウィッツによると、フェイスブックでは、CEOのマーク・ザッカーバーグや製品担当副社長のクリストファー・コックスを含む最高経営陣が、すべての製品の創案や設計に「超深入り」している。ユーザー体験がすべてであるこの時代には、経営トップはどのプロジェクトにおいても、承認前にみずからプロトタイプに直接携わることが重要であるという。「デザイナーやエンジニアが、パワーポイントのスライドでプレゼンテーションを行う審査委員会などありません。まずはつくってみよう、というのが私たちの企業文化です。スライドで発表されるアイデアは、すぐに忘れられてしまいます」と、彼女はスティーブ・ジョブズの信条を繰り返すかのように述べた。

 フェイスブックの最高経営陣は皆、審判ではない。彼らは起業家的思想の提供者であるという。「経営陣はある意味、チームの一員にすぎないのです――タイム誌で「今年の人」に選ばれていようとも。我が社のイノベーションのプロセスで重要なのは、承認を得ることではなく、これらの思想家たちを参画させることです。経営陣を隔離する理由はありません」とアロノウィッツは語った。リーダー陣がデザインの意思決定プロセスに関わっていれば、予想外の最終決定が下されることはない。加えて、アロノウィッツが言うように、「制作プロセスに関わっていなければ、その製品について判断を下すのは難しいでしょう」

2.「ユーザーにとって真に重要で、状況に合っているものは何か」を問う
 フェイスブックを積極的に活用するユーザーは、今やデスクトップPCやラップトップよりも携帯電話で日々アクセスしている。したがってフェイスブックは早急に、モバイルに主軸を置く会社となる必要に迫られている。フェイスブックの携帯アプリを利用者数ナンバーワン(アンドロイドおよびiOSを合算。コムスコアからの統計データによる)に押し上げたのは、どのような戦略なのだろうか。もちろん、いくつかのわかりやすいアプローチはある。より小さい画面サイズに合わせて画像やテキストを簡素化し、モバイル機器で引き立つようにするなどだ。