現代社会を形成した資本主義は、豊かな社会とグローバル化をもたらした。一方で、貧富の格差拡大や環境破壊といった問題も生み出している。
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で50年以上も教鞭を執るジョセフ・バウアー教授が、2人のHBS教授と執筆した“Capitalism at Risk: Rethinking the Role of Business”(邦訳『ハーバードが教える10年後に生き残る会社、消える会社』徳間書店、2013年)で展開した論を基に、資本主義が抱える問題に対して企業は何ができるのか伺った。本誌2015年1月号(12月10日発売)特集「CSV経営」に関連してお届けする。
資本主義が直面する11の脅威
編集部(以下青字):資本主義の危機とは、どのようなものでしょうか。
バウアー(以下略):いまの世の中というのは不安定で不透明な社会です。多くの変化が日々起こっています。我々の社会を支えてきた資本主義についても、さまざまな問題が生じています。世界のビジネス・リーダーとの対話の中で、11個の脅威が挙げられました。すなわち、(1)金融システムの危機、(2)保護主義による貿易障壁、(3)不平等から生じるポピュリズム、(4)移民増加による不安定化、(5)環境破壊の悪化、(6)法の支配の機能不全、(7)教育と公衆衛生の機能不全、(8)国家資本主義の台頭、(9)急進的運動やテロリズム、(10)伝染病の流行、(11)現行制度の欠陥といった問題です。

ジョセフ・L・バウアー(Joseph L. Bower)
HBSの経営学教授。50年以上にわたり「経済的・社会的・政治的環境の大きな変化に、リーディング・カンパニーが直面する難題」をメインテーマに研究。HBS上席副学長、ハーバード・ケネディ・スクール(HKS)の公共経営講座の開発者、企業幹部向けのGeneral Management Programの創立座長、政府高級官僚向けのHBS-HKS プログラムの共同創立者。主著に “The CEO Within” (未訳), “Capitalism at Risk: Rethinking the Role of Business” (邦訳『ハーバードが教える10年後に生き残る会社、消える会社』徳間書店、2013年)など。
これらはすべて、先進国・途上国を問わず、世界中のビジネス・リーダーが共通して認識している脅威です。あらゆる国が直面している問題であり、また長期的に取り組まねばならない問題なのです。さらにこれらの問題の指摘は、2007年のリーマン・ショック以前になされました。
――これから新興国を中心に、世界中が経済的に豊かになっていきます。一方で、資本主義の拡大によって、こうした問題が生じるのは皮肉な現象です。
一番の問題はやはり政治です。政治の不安定がそうした問題を引き起こしていることは、疑いようがありません。どこの国の政府もお金がないのです。ただ、それ以上に重要なのは、問題に正面から取り組むための政治的な力を持っていないということです。政府はそのことを必死に隠していますが、そうした姿勢が原因だと考えています。
――そこで企業がリーダーシップを発揮すべきだ、とおっしゃるのですね。
ええ、その通りです。すべての問題を企業が解決できるわけではありませんが、企業が力を発揮する機会は多くあると思います。