我々はいま、容赦ない変化、熾烈な競争、飽くなきイノベーションといった厳しい環境を生きている。従来のマネジメントの常識にしがみついたままでは、このような世界で生き残ることは不可能である。「大企業はDNAレベルで不適応を起こしている」とゲイリー・ハメル教授は指摘する。しかし、教授によれば、何をしなければならないかはおおむね判明しているという。近著What Matters Now(邦訳『経営は何をすべきか』ダイヤモンド社刊。注1)から、いま、そしてこれから必要とされるマネジメントの要諦を聞く。

あらゆるものが
不適応を起こしている

編集部(以下色文字):近著What Matters Nowでは、急速な変化を遂げる世界で、イノベーティブな企業であり続けるために、マネジメントはどう生まれ変わるべきか、また資本主義や組織、仕事の意味はどう再定義されるべきかを説いておられます。

 折しも日本では、戦後の成長を牽引してきた企業の低迷が続いています。日本企業が抱える問題の本質は、何だと見ていますか。

ハメル(以下略):我々の世界は産業経済から知識経済へ移行し、さらにそれがいま、創造的経済へ変化してしまいました。そのジレンマに、日本は直面しています。日本企業は、並外れた職業倫理や熱心な継続的カイゼンによって、自動車産業、電子産業で世界の頂点に立ってきたのですが、それが新しい創造的経済の時代に適応しなくなっているのです。

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ゲイリー・ハメル(Gary Hamel)
ロンドン・ビジネス・スクール客員教授(戦略論、国際マネジメント)。国際コンサルティング会社ストラテゴス設立。経営論、戦略論の専門家として活躍しながら世界的企業のコンサルタントも務める。一流経済・経営誌への寄稿多数。C. K. プラハラッドとの共著『コア・コンピタンス経営』、単著『リーディング・ザ・リボリューション』、ビル・ブリーンとの共著『経営の未来』(すべて日本経済新聞出版社)は世界的ベストセラー。
PHOTOGRPHY:Hiroyo Kaneko

 硬直したヒエラルキーや中央集中化、過剰管理などが、競争力を脅かすものになっている。産業が大量生産や効率性を求めていた時代ならば、それらは有利に働いていたでしょうが、イノベーションや順応性、社員一人ひとりの本来のやる気を引き出せなくなっているのです。

 これは日本に限ったことではなく、大組織ではどこでも共通して見られます。かつての時代に持てはやされた標準化、専門化、ヒエラルキー、調整、コントロール、予測、付帯的な金銭的報酬などは、すべて管理主義の一翼を担うもので、これが高精度製品を製造するための何百というプロセスを支えてきました。

 しかし、いまや不ぞろいな人々が変則的なアイデアを基に型破りな製品を生み出し、それがどんな利益を生むのかも予想がつかない時代です。大企業はもはや、DNAレベルで不適応を起こしていると言っていいでしょう。

 この変化の原因の一つはデジタル・テクノロジーによるものですが、それだけでなく、貿易自由化や消費者が力を持ったことも関係しています。たとえば、ここ数年アメリカで最も売れているフラットTVは、ビジオ(Vizio)というメーカーの製品です。同社はたった十数年前に設立された企業で、それまでは名前を聞いたこともなかった。そんな企業の製品が売れるのです。

 私がかつてビジネス・スクールで教壇に立っていた頃は、ブランド力さえあれば競争に有利だといわれたものです。しかし、それはもう通用しません。消費者自身が優れた製品を調べ上げているからです。ブランドが護ってくれないとなると、企業は急速な変化に合わせてみずからを適応していかねばなりません。そして、そのためには、イノベーションと創造性が必要になるのです。