なお、マネジメント・イノベーションの実験を行う際に留意すべき点は四つあります。

 一つ目は、どんな問題を解決しようとしているのかを明確に把握することです。効率もスケールも必要でしょうが、いま求められているのは、迅速に変化できる組織です。競争優位はすぐに淘汰されるので、常に進化できる企業となることが肝要です。グーグルは、検索エンジン分野で1年に5000回の実験を行うといいます。適応性に優れた企業はイノベーティブであり、イノベーティブな企業は社員をインスパイアーします。

 二つ目に大切なのは、古いモデルに新しい部品をくっつけるようなやり方では、マネジメント2.0は実現できないということです。上述したように、これはDNAが置き換わるような転換です。10年後の組織図は、ネットワークのようなものになっているかもしれません。ラディカルな変化があるかもしれないということを、少なくとも受け入れられる心の準備をしなければなりません。

 三つ目は、新しい原則を基点にするということです。従来の標準化、専門化、ヒエラルキー、調整、管理といった原則を擁していた管理のイデオロギーに代わって、自由のイデオロギーを基本にする必要があります。社員は他の領域に属す人々と自由に交わらなければなりません。なぜなら、イノベーションはそうしたところから起こるからです。

 また、自由に実験し、自由に時間を無駄にして思考にふけることができるようにしなければなりません。マネジャーたちが原則やイデオロギーを考えることは稀ですが、新しい問題を解決しようとするならば、新しい原則や新しいイデオロギーなしには不可能です。それがあってこそ、今後200年間にわたって人類の繁栄を支えるようなマネジメントのイノベーションが可能になるのです。

 そして最後に、マネジメント2.0につなげるためには、たくさんの実験が必要であると認識することです。うまくいくものもあれば、いかないものもあるでしょう。

 実験の方法は、だれが考えるのでしょうか。

 それはトップダウン型に行われるのではありません。ただ、歴史的にもマネジメントのイノベーションは大きな成果がもたらされてきたのですが、その実験のプロセスやプロトタイプ化を方法論化したものはありませんでした。実は現在、それを可能にするオンライン・プラットフォームを我々で開発しているところです。

 これを利用すれば、どの社員も自社のマネジメントをハックすることができる。ただしハックといっても、何も企業を爆破するわけではありません。報酬をピア・レビューで決定するとどうなるかといったことについて、共同で考えを構築していけるようなオンライン・プラットフォームをつくっているのです。

 マネジメントの実験は、新旧複数のものを同時に進行させ、組織の財政や評判に影響を与えないような安全性があり、さらに社員にとってまるでゲームのように楽しめるものであることが必要です。

【聞き手】編集部 瀧口範子(ジャーナリスト)

【注】

1)
Gary Hamel, What Matters Now, Jossey-Bass,2012.(邦題『経営は何をすべきか』有賀裕子訳、ダイヤモンド社)。
2)
“First, Letʼs Fire All the Managers,” HBR, December 2011.(邦訳「マネジャーをつくらない会社」DHBR2012年5月号)。また、最新刊What Matters Now(邦訳『経営は何をすべきか』)でも言及されている。
 
提供:日本・アイ・ビー・エム