マネジメントは
生まれ変わるべきか

 組織を刷新するには、どういったマネジメントが求められているのでしょうか。

 歴史的に見ると、トップダウン型組織で行われてきた「マネジメント1.0」が始まったのはたった120年ほど前のことです。1900年の時点でも、その50年後にフォード・モーターのような企業が毎年50万台の自動車を生産するようになるとは、予想もつかなかったでしょう。

 この時に起こったイノベーションは自動車ではなく、人間の活動を大規模で調整することを可能にするマネジメント・システムです。これが予想できなかったのと同じように、現在もこの先10~15年でマネジメント・モデルが遂げる急速な変化を予測するのは簡単ではありません。

 しかし、変化は確実に起こります。なぜなら、我々は大規模な共同作業を調整できるソーシャル・ウェブのツールや新しい世代の社員など、変化をもたらす一連の問題にもう直面しているからです。

 つまり、マネジメントそのものにイノベーションが起こるということでしょうか。

 私は、イノベーションをピラミッドのような多層構造でとらえています。いちばん下の層にあるのは、オペレーション上のイノベーションです。これは戦略的にもなりえますが、だいたいは製造の効率化を図るとか、ビジネスプロセスをアウトソースするといったもので、長期的な競争優位を確保するものではありません。

 その上の層は、製品やサービスでのイノベーションです。新しい投資商品とか、画期的なカメラの開発などが相当します。しかし今日、こうしたイノベーションは6カ月も経てば真似されてしまいます。

 さらにその上に、ビジネスモデルのイノベーションがある。これは、製品やサービスを超えて、それらを生産したり顧客の手元に届けたりする際に、どんな新しい方法を用いるかというところに関わるものです。格安航空のエアアジアや家具量販店チェーンのイケアなどが好例でしょう。ビジネスモデルのイノベーションは業界のルールを変えるため、競合他社はそれほど簡単に追いつくことができません。ですから、たいてい10年以上の優位性を与えてくれます。

 さらにその上の層が構造的イノベーションであり、日本企業が苦悩しているのはここだと、私は見ています。これは、新しいビジネスですらなく、新たに統合された産業構造全体に関わるものです。

 たとえば、アップルが音楽産業に対して行ったことを考えると、そこでのイノベーションは〈iPod〉というハードウエアではなく、レコード会社を一堂に集めて、これまでにない法的枠組みで楽曲をインターネット上で販売するのに同意させたことです。これによって、コンピュータやスマートフォンなど、多様なデバイスで音楽が楽しめるようになった。

 同様に、〈アンドロイド〉やデジタル・マネーのような新しい支払方法も構造的なイノベーションです。その特徴は、1社だけでなく、複数の企業のネットワークが標準に合意して参加するという点にあります。日本企業は、製品やビジネスモデルのレベルでイノベーションを起こしてきましたが、この構造レベルで停滞している。これに近かったのは、かつてのNTTドコモでしょう。