ラグジュアリーブランドのコアといえる職人たちの技術は、工房のなかで秘伝的に伝えられてきた。しかし近年、ボッテガ・ヴェネタやヴァンクリーフ&アーペルといったブランドがクラフトマンシップの真髄を教える学校を開き、その技術を広くシェアしていこうとしている。この背景にある新たなブランド戦略とは何か?
前回はクラフトマンシップ(職人技)というブランドのコアをものづくりの原点に置くことで、ライフスタイル全般をデザインしていくボッテガ・ヴェネタの活動を紹介しました。
それは旧来型のラグジュアリーブランドが持っていた社会的なステータスの証明よりも、身につけたときの心地よさといったパーソナルな価値を重視する現代の消費意識にフィットしています。それに合わせて、ラグジュアリーブランドの活動も価値を一方的に与えるものではなく、消費者のライフスタイルに寄り添ったものに変化しているのです。
多面的な商品展開においてクラフトマンシップをコアに据えるこうしたラグジュアリーブランドの姿勢は、サステナブルな企業活動としても表れています。その代表例が、職人のノウハウを保護し、広く共有していく養成学校の創設です。
そうした現状を紹介するために、再び、ボッテガ・ヴェネタに登場してもらいましょう。
クラフトマンシップが公共財のようにシェアされる

ボッテガ・ヴェネタの職人養成学校では、ヴィチェンツァの工房で職人たちと一緒に伝統の加工技術を学ぶ。
イタリア北東部のヴィチェンツァ地方の熟練革職人の伝統から生まれたボッテガ・ヴェネタの象徴ともいえるのが、メゾンのシグネチャーである「イントレチャート」という革の編み込み加工です。しかしこの技術を始め、現地の工房で大切に守られてきたクラフトマンシップは、時代の移り変わりとともに職人のなり手が減少し、存続が危ぶまれていました。
そこで同ブランドは、2006年夏に次世代の革職人を養成し、支援するための専門学校「la Scuola Della Pelletteria Bottega Veneta」を開校。現在も世界中から生徒を集めています。