左脳だけでなく、右脳もくすぐるアウディのラグジュアリー戦略
「技術による先進」をブランド哲学としてさまざまな展開を行っていくアウディの姿勢は、現代のイノベーターたちのイメージとも重なります。華美な高級品に身を包んだ大富豪ではなく、デニムとタートルネックをユニフォームとしながら知性とセンスで世界の頂点に立ったスティーブ・ジョブズのような存在を連想させるのです。

高津尚志氏:IMD日本代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、フランスの経営大学院INSEADとESCPで学ぶ。日本興業銀行、ボストンコンサルティンググループ、リクルートを経て、2010年11月より現職。著書に『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか』(共著)など。
「ますます複雑化、不確実化する世界のなかで、エグゼクティブ層が下す日々の判断にはいっそうの合理性や広範囲の知性が求められるようになっています。彼らは、それゆえにアウディのブランド哲学に共感するのでしょう」と語るのは、グローバルリーダーを育成するスイスの世界的ビジネススクールIMD日本代表の高津尚志氏です。
成功や地位、富の象徴としてではなく、自分のアイデンティティのあり方、美意識を示すものとしてクルマ選びをする態度がエグゼクティブ層にまで広まっているとしたうえで、アウディ好調の理由を、高津氏はこう分析します。
「機能面での高品質はすでに前提になっており、それだけでは差別化が難しい。品質が与える左脳的満足は当然のものとして、さらに右脳的刺激を提供できるか。どんな“遊び心”を加えて、感性にも訴えていくか。その“遊び心”の部分で、各ブランドが個性を競っています。アウディは、『知的好奇心の刺激』というツボを見つけ、一貫したコミュニケーションを重ねてきました。そのツボが、時代の流れのなかでより多くの人々に効くようになっています。だからこそ、アウディは従来ならもっと高価格な超高級車を購入していた人々にまで、シェアを拡大することができたのです」
高品質・高機能というだけでなく、遊び心によって左脳と右脳をくすぐる。それがアウディをラグジュアリーなブランドにしています。
次回は、アウディの「知性」に対し、世界でも類を見ない取り組みで新たなブランドの価値をつくりあげようとしている高級車ブランドの例として、レクサスを取り上げます。