人は外見と振る舞いで、ある程度判断されてしまうのが現実だ。そしてアメリカでは、企業幹部の要件として「エグゼクティブ・プレゼンス」(幹部としての振る舞いや存在感)が問われるという。幹部らしさとは何を指すのか。それを身につけ、幹部としての影響力を高める方法はあるのか。本誌2014年1月号(2013年12月10日発売)の特集「人を動かす力」関連記事、第7回。


 企業のCスイート(最高○○責任者)を目指す管理職に、それを実現するために何が必要かと尋ねてみると、口を揃えて「エグゼクティブ・プレゼンス」だと言う。だが当人たちは、その意味するところを必ずしもよくわかっていない。少し前に、私は企業内で幹部人事を担当する上級幹部数名に対して、オフレコのヒアリングを実施したことがある。Cスイートに昇進させるか否かを左右する要因を尋ねたところ、挙げられたいくつかの判断基準の1つにエグゼクティブ・プレゼンスが含まれていた。しかしながら、経験豊かなこれらの上級幹部たちでさえ、その言葉を明確に定義できず、なぜそれを持つ者と持たない者がいるのかを説明できなかった。

 ますます多様化するこの社会では、上級幹部はもはや俳優斡旋会社から送り込まれたような身長188センチの男性ばかりではなくなった。さて、堂々としたエグゼクティブ・プレゼンスはどうしたら身につけられるのだろうか。服装だろうか、それとも力強い握手か。それらも大事ではあるが、すべてではない。

 エグゼクティブ・プレゼンスとはある程度直感的なもので、明確に定義するのは難しいが、究極的には「成熟した自信を醸し出す能力」だろう。この人ならば困難で予測不能な状況をコントロールし、難しい決断を迅速に下し、他の優秀で頑固な幹部たちにも引けを取らない、というイメージだ。このようなイメージを反映した自信を周囲に示すには、どんなスタイルや行動、態度を組み合わせればよいのだろうか。そのヒントを得るために、3人の優れたマネジャーの例を見てみよう。うち2人は幹部の地位を勝ち取れず、1人だけが昇進を果たした。

 フランク・シモンズは、どのマネジャーも自分のチームに欲しいと思うような人材だった。豊かな経験を持ち、成果主義で、協調性に富み、会社への忠誠心も厚いフランクは、何年も前から幹部候補に上っていた。が、結局昇進することはなかった。自身の専門分野ではトップレベルの業績を上げていたが、フランクはいつも「よれよれした」印象で、少し猫背だった。経営陣へのプレゼンテーションには常に準備万端で臨んだが、その身振り手振りには落ち着きのなさが表れていた。普段の話しぶりは明瞭なのだが、プレゼンになると長ったらしくまとまりを欠いた。質疑応答では、幹部たちに対して必要以上に慇懃になり、幹部同士の議論が始まると、気後れして割って入ることができなかった。ある上級幹部はひそかにこう打ち明けた――「フランクは会社にとってかけがえのない存在だが、お客さんの前に出したいとはどうしても思えない」

 アリシア・ウォレスは熟練のマーケティング担当マネジャーで、これまでの任務をすべて成功させてきた。ところが、幹部職にふさわしい有望人材を会社が選ぶ段階になると、いつも選から漏れた。マーケティング担当の上級幹部たちは彼女を気に入り一目置いてはいたものの、次のレベルに上げようという気にはなれなかった。その理由は、アリシアがあまりにルーズであったからだ。会議の時間に遅れ、書類を乱雑に抱えて慌ただしく駆け込んで来る彼女を見て、周囲は「やっぱりアリシアだね」と囁く。これは取るに足らない、些末なことだろうか。そうかもしれないが、上の人たちの心証を悪くする。今より大きな組織を管理し、優先度の高い課題に集中して取り組む余裕が彼女にあるのか、疑問を持たせることになったのだ。