海外市場進出に伴う課題の1つは、コミュニケーションだ。異文化の消費者と従業員を味方につけるには、相手国の基本的な文化的特徴を押さえておくことが必須であり、本記事でその一端を紹介する。本誌2014年2月号(1月10日発売)の特集、「日本企業は新興国市場で勝てるか」の関連記事、第5回。
今日では、どんなビジネスでもグローバルビジネスであるといえる。主要市場のすべてに拠点を持つ大企業の社員であれ、1つのウェブサイトのオーナー兼管理者であれ、何かを発信すればさまざまな文化圏の人々に届くことだろう。消費者の意思決定や行動を理解することは、文化の多様性を考えるとよりいっそうの複雑さと困難を伴う。
異文化の人々と効果的にコミュニケーションを図り、彼らに納得してもらうには、どうすればよいか。幸いなことに、異文化間コミュニケーションを研究する社会科学者たちがいくつかの目安を示してくれている。なかには一般論すぎるモデルもあるため、固定観念は避けたいところだ。ともあれ、多様な顧客層に効果的にアプローチするきっかけとしては役に立つはずだ。
最もよく知られているのは、「個人主義/集団主義」という分け方だろう。アメリカ、カナダ、イギリスなどは基本的に個人主義文化であり、人々は個人の自主自立を尊重し、個人的な目標の達成を重視する傾向がある。対称的に、日本や中国、韓国、メキシコなど集団志向の強い文化の人は、より大きな社会的集団に帰属する存在として自分を捉える傾向がある。
こうした違いは、広告に対する消費者の反応にも表れることが実証されている。たとえば、ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・サイコロジー誌ではこんな調査報告が発表されている。ある洗濯用洗剤を、「あなたに愛される、柔らかい仕上がり」というキャッチコピーで宣伝したところ、個人主義文化では一貫して好評だった。ところが集団主義文化の人々には、「あなたの家族に愛される、柔らかい仕上がり」というコピーのほうが反応がよかった。
洗濯用品の効果的な宣伝方法に限らず、異文化の人々と関係を築き彼らに影響を与えるうえでも、異文化間コミュニケーション研究は貴重な洞察を与えてくれる。
研究者のマイケル・モリス、ジョエル・ポドルニー、シェーラ・アリエルは、195カ国に支店をもつシティバンクの社員を対象に調査を行った。その目的は、同僚から助けを求められた社員が自主的に応じる決め手となる要因を特定することだ。調査が実施された当時、同行は支店の従業員をほぼすべて現地採用する方針を採っていた。