調査の結果、アメリカ、カナダ、イギリスをはじめとする欧米文化の国々では、シティバンクの社員は同僚を助けるかどうかを個人的な市場原理に基づいて判断していた。すなわち、まず「この人は最近、自分のために何かしてくれただろうか」と自問するのだ。助けに応じる義務を最も強く感じるのは、相手が先に自分のために何かをしてくれていた場合であった。
一方、中国や韓国を含む一部のアジア文化では、より集団的で家族志向の姿勢が見られた。つまり、助けに応じるかどうかは依頼内容そのものよりも、依頼者が誰とつながっているかに左右される。判断の際には、「この人は自分の部署の誰か――特に、地位の高い人と――つながっているだろうか」と考える。答えがイエスなら、依頼に応じる義務を感じる。
さらに、地中海沿岸や南米諸国の社員の場合は、依頼者が自分の友人とつながっていれば助けに応じる確率が高かった。ドイツ、オーストリア、北欧の支店では、依頼が組織の規則や方針と一致していることが示された場合に、応じる可能性が最も高かった。
この最後の2つの結果は、「水平/垂直」という別の文化的差異をよく表している。水平社会は、構成員の間の平等を重視し、垂直社会はヒエラルキーを重視する。
こうした調査研究の真の価値は、コミュニケーションと影響力の行使に関する示唆にある。個人主義の文化の人々と仕事をする時には、何かを依頼する前に、こちらから相手に何らかの価値を提供するとよい。あるいは、すでに提供したリソースや手助けがどう相手の利益になっているかを尋ねて認識させるのもよいだろう。一方、集団主義の人には、何かを提案する前に、自分がいかに相手の組織の上層部とつながり、知られているかをほのめかすほうが効果的だ。
研究から得られる別の示唆は、ある文化的環境から別の文化へ移る場合、現地の人々と人間関係を築き、協力して仕事をするためには、とるべき戦略を変える必要があるということだ。
要するに、依頼やコミュニケーションの効力は、受け手の文化的背景によってあらかじめ決まってしまうことが少なくないのだ。これは異なる文化の間に共通点がない、という意味ではない。しかし、人に影響を及ぼし理解を得るには、責任と倫理を持ってコミュニケーションをとるだけでは十分ではなく、文化的側面を考慮することがますます重要になっている。
HBR.ORG原文:Being Persuasive Across Cultural Divides December 7, 2010

スティーブ・マーティン(Steve Martin)
影響力に関するコンサルティングを行うインフルエンス・アット・ワークのディレクター。『影響力の武器 実践編「イエス」を引き出す50の秘訣』の共著者。