一方、「TA回避」の場合は最初から「自らの達成感」は諦めているので、「金メダル獲得」の嬉しさを優先すると考えられます。そして同じメダルの色なら、演技の出来がよいほうがNPlVは大きいと想定します。

 そのうえで、「TA挑戦」と「TA回避」のそれぞれの6シナリオの計12ケースのNPlVを比較・考察して、嬉しさ順位を設定しました。

「TAでの完璧達成感」シナリオ(上から2つ目)を除いては、「金メダル獲得」の嬉しさが優先され、それ以外の金メダルが獲れないケースでは、「TAにトライしたこと」の嬉しさが優先されると考えています。

 以上のディシジョンツリーの構造設定、確率想定、嬉しさ順位の結果は図1に表示されていますので、確認してみてください。

 ディシジョンツリーを完成し、期待値の計算をします(図2参照)。

 これまでに設定した嬉しさ順位に加えて、NPlVの数直線のようなものを考え、一番嬉しいケースを100点、一番嬉しくないケースを0点として、先の12のケースの相対的な嬉しさに点数を付与します(相対的NPlV) 。もちろんこれも筆者の勝手な想像での設定です。

 相対的NPlVを12のケースに書き込み、また各ケースが起こる確率を計算してディシジョンツリーを完成させます。

 確率の計算は、2つの不確実性での各シナリオの確率の掛け算で計算します(たとえば、一番上のケースでは、0.1×0.9=0.09、上から5つ目のケースでは、0.5×0.1=0.05といった具合です)。

 そのうえで期待値を、それぞれのケースの確率と相対的NPlVの掛け算の和として計算します(たとえば、「TA挑戦」の場合は、(100)×(0.09)+(85)×(0.01)+(95)×(0.12)+(48)×(0.28)+(80)×(0.05)+(40)×(0.45)=56.69 となります)。

 なお「期待値」というのは、上の計算方法で示したように、「さまざまな起こりうるシナリオでの嬉しさの確率重み付き平均」で、こうした意思決定を何千回、何万回と行った時の 相対的NPlVの平均値です。実際には今回の意思決定は1回限りですので、期待値というのは、その選択肢の「筋のよさ」を示す1つの指標、ととらえておくのが妥当です。

 ちなみに、図2の期待値の計算値は、主観的確率の読みと、相対的NPlVの数値を使った計算結果を、生の数値として、かなり桁数の多い形で記しています。しかし、もともとの確率の読みも、相対的NPlVの値の想定も主観的なものなのですから、実際にはこんなに有効桁数のある数値はありえません。さりながら、読者が計算を検算し理解をしていただきやすいように、あえて生の計算結果をそのまま記しています。