世界の高級品市場においてeコマースの存在感が増すなか、リアルな店舗は岐路に立たされている。百貨店に代表される高級品の小売業では、もはや“そこにいけば何でもそろう”という価値の訴求が人々に響かない。目指すべき新しいショッピング体験のあり方とは何か。昨年、日本1号店である新宿店の初リニューアルを行った「バーニーズ ニューヨーク」の事例から紐解く。

 「ラグジュアリーの変化」をテーマに続けてきた本連載では、これまで、ファッション、ホテル、高級車など、高級品市場におけるさまざまなブランドの最新事情を取り上げてきました。しかし、まだ重要なプレイヤーが残っています。それは百貨店に代表される小売業です。

 例えば、洗練されたサービスや豊富な品ぞろえによって富裕層の御用達であり続けた百貨店は、世界的には業績が低迷しています。高級品市場全体では現在も右肩上がりの成長が見込まれているにもかかわらず、です。

写真を拡大
ゴヴァース健二氏:ベイン・アンド・カンパニー、パートナー。20年以上にわたり、日米欧のラグジュアリー、アパレル、化粧品、食料品といった消費財企業への経営コンサルティングを数多く手掛ける。

 経営コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーのパートナー、ゴヴァース健二氏は、それを世界的なトレンドの変化にあると説明します。

 「百貨店の特徴だった“何でもある”という状態が、今どきの生活者に響かなくなってしまっているのです。この変化は『ジェネラリストからスペシャリストへ』と言うことができるでしょう。電化製品を百貨店で買う人が珍しくなったように、ファッションならファッションの専門店、家電なら家電専門店と、人々はそれぞれの分野に特化したお店から購入するようになっています。そのため百貨店には商品の網羅性よりも、生活者のニーズを見極め、より選び抜かれたラインナップが求められているのです」

 さらにeコマースの成長も百貨店の売り上げに影響を及ぼしています。ベイン・アンド・カンパニーのラグジュアリー市場レポートによると、2003年から2013年の10年間でオンラインチャンネルの市場規模は約10倍にも達しています。