こうした一連の改革の成果もあり、値引きの禁止や安価な売りやすい商品の縮小という大胆な方針転換を行ったにもかかわらず、増収増益を遂げたというバーニーズ。今後の課題は「いかに新規の客層を取り込んでいくか」にあると上田谷社長は言います。

 「私たちのポリシーは『普通の大人をカッコよくしたい』というもの。何でもゴージャスにするのではなく、日常のなかでちょっとカッコいいと感じられるスタイルを広めていきたいのです。だから初めてのお客さまであっても、予算やシチュエーションなどを相談のうえでその方に合ったコーディネートを提案します。バーニーズというと、オシャレに詳しい方が利用する敷居の高いイメージがありますが、実はファッションに対する知識があまり無いファッション・ビギナーにこそ、積極的に活用して欲しいのです。だから今後は、何となく近寄りがたいと思っている方々に、どうやってお店まで足を運んでいただくかを考えなければと思っています」

アメリカの百貨店ではデジタルとリアルの融合が始まっている

 バーニーズは価格で勝負するのではなく、品ぞろえとサービスという原点に立ち返ることで、eコマースにはない魅力を提供しています。一方で、バーニーズ創業の地であるアメリカの小売業界では、リアルとデジタルの融合が始まっているようです。

 前出のベイン・アンド・カンパニーのゴヴァース健二氏がこう説明します。

 「一部の百貨店で試験的に行われていることですが、ネットワーク上に保存された膨大な顧客情報を店員が持つiPadに映し出すことで、その人が過去にどんな商品を購入し、どんな好みがあるのかその場で参照できるようなシステムが導入されています。店員はその情報を元に、顧客に応じた商品をオススメできるようになります」

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画像はメイシーズが導入しているヴァーチャル試着室「Magic Fitting Room」のシステムを解説した動画より

 さらに大手百貨店のメイシーズでは、試着用にカメラ付きの鏡とiPadを備えた「Magic Fitting Room」というサービスを2010年に開始しています。これはスクリーンも兼ねた鏡の前に立つことで、着替えなくともさまざまな種類のヴァーチャルな試着ができるというもの。その場で組み合わせをフェイスブック上にシェアすることも可能で、コーディネートの是非を友人に尋ねることができるのです。

 こうした店舗におけるデジタルとリアルの融合は、「オムニチャネル・リテイリング」と呼ばれています。ウェブサイトからリアルな店舗まで、無数の販売チャンネルを通じて顧客と相互交流できる戦略の構築を目指すものです。

 「オンラインとオフラインではそれぞれ強みが異なります。オンラインは膨大な顧客情報や商品の網羅性に優れ、オフラインはなんといっても実際に商品に触れることができます。オンラインではショッピングはワンクリックで済みますが、オフラインではショッピングを体験やイベントとして楽しむことができます。確かに百貨店業界は欧州や米国、日本といった先進国で低迷していますが、リアルな店舗の価値をあらためて認識したうえで、オンラインの良い部分を取り入れていけば、デジタルとリアルが競合するのではなく、相互補完的な関係になっていくことができるでしょう」(ゴヴァース氏)

 世界的な変化の岐路に立たされている小売業界。デジタル化や消費意識の変化にどう向き合うにせよ、まずはリアルな店舗の強みは何なのかを見直すところに、復活のヒントはありそうです。

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