「よいサービス」は業績を左右する諸要素の1つだが、必ずしも最優先事項ではない。サービスの質を落とすことが高業績につながる、という場合さえある。しかしそれは、企業のあるべき姿といえるのだろうか。銀行、航空会社やSNS企業の例は、サービスと業績の関係を改めて考えさせる。


 新聞を読めば驚かされることばかりの昨今だが、ニューヨークタイムズ紙の先日の記事には心底仰天させられた。有名な証券アナリストで銀行の株価に詳しいリチャード・ボーブが、ウェルズ・ファーゴのずさんなサービスを酷評していた(窓口対応の不親切、説明のない月々の手数料、ローン申請時の不備)。腹に据えかねたボーブは、同行の口座を解約して別の銀行に移す、と宣言したほどだ。ところがその同じコメントで、彼は企業としてのウェルズ・ファーゴを称賛し、同社株の格付けを「買い」に引き上げているのだ。

 ボーブの言わんとするところは何か――お粗末なサービスと事業の成功は両立する、ということだ。「サービスはひどいものですが、企業としてはきわめて有望――私はこの事実に驚いています」。という彼の結論が、記事の主旨となっている。「顧客がどのような理由でその銀行を選んでいるのかを、再考しなくてはなりません」

 なるほど、では考えてみよう。おそらく、質の悪いサービスと高業績とが両立する状況はいくつかある。第1に、サービスが契約には含まれないこと、つまり顧客との関係が粗雑にならざるをえないことを、企業が顧客に明示している場合だ。私は2009年にこの連載で、ライアンエアーの驚くべき業績について書いた。同社は野心的なアイルランドの格安航空会社で、顧客サービスに力を入れるつもりはないことを堂々と認めている。機内のトイレをコイン式にして1ポンドの使用料を取ることまで検討したほどだ。

 しかし、同社のCEOマイケル・オレアリーと経営陣が余計なサービスの削減に熱心なのは、考えがあってのことのようだ。ライアンエアーはコスト削減に邁進するビジネスモデルによって、ヨーロッパの空の旅を変えた。支出を厳しく切り詰めることで運賃を驚くほど低く抑えている。2007年のエコノミスト誌によれば、同社は「空の旅を、最も限られた手段しか持たない人々にも手の届くものにした。十分活用されていない地方空港に乗客と金をもたらすことによって、ヨーロッパで置き去りにされていた地域の経済展望を明るくしている。しかし同時に、ライアンエアーはひどいサービス、過激な誇大広告、邪魔者を侮蔑することで名高い存在となっている」

 同社の大胆な戦略に共感し、なぜ乗客をそんなふうに扱うのかを理解する必要はない。同社は、そもそも万人向けの航空会社ではないのだ。枕や毛布、にこやかな客室乗務員、到着の遅れに対するお詫びを重視する乗客は、どこか別の航空会社を利用し、それらの特典に料金を払う――それが道理だ。