そして、多くの企業や営業研修で重視されていることは間違っていると、私は気づいた。営業の教育ではたいてい、2つのうちどちらかが提供される。1つは、さまざまなテクニックや工夫を用いて見込み客を契約にまで持っていく販売プロセス。もう1つは、優秀な営業担当者に共通するとされる、見習うべき性質と行動である。
しかしどちらの方法も、営業でうまくいくかどうかの判断材料にはならない。
いまやっているセールスの仕事は、自分の性分に合わない、あるいは、人生で成し遂げたいこととは違う――。もし当人がそう思っているならば、成功しないだろう。反対に、その仕事を心地よく感じているならば成功するはずだ。1人ひとりの営業担当者が、自身の役割をどう捉えているか、そして営業という仕事がいかに自身を支え、満足させ、あるいは自身を傷つけると考えているか――これ以上に重要なことはないのだ。
たしかに、優秀な営業担当者には基本的な資質(特に楽観主義と粘り強さ)があり、それらは逆境での再起にもつながる。だがそれ以上に、営業として成功するためには、「本当の自分自身」と「自分に求められている仕事」に一致を見出すことである。
営業担当者のなかには、出会った誰に対してもすぐさま売り込みをせずにはいられない人もいる。長期的な信頼関係がそれほど重要視されず、毎日数多くの商談を成立させることが求められる仕事であれば、彼らは成功するだろう。一方で、長い時間をかけて濃密な人間関係を築くことを好む人もいる。そうしたタイプは、販売サイクルの長い製品やサービスを扱うこと、あるいは同じ顧客と何度もやり取りをすることに向いているかもしれない。一部の人は純粋に金銭を目的とし、コミッション稼ぎやライバルに勝つことのみを動機とする。その反対に、自分の惚れ込んだ製品やサービスを売りながら、好きな分野で働くことを重視し、営業活動で生まれる友情を大切にする人もいる。純粋にスリルを感じたいために何かを売り込む人もいる。自分が本当に求めるもの――人気や注目、経済的安定、創造的自由、等々――を得る手段として営業に従事している人もいる。
だが、営業の従事者、管理者、あるいは採用者が最初に理解しなければならないのは、先述したような各自の「個性・自己認識・役割」が互いにどう作用しているかである。そこにある乖離を特定することで、営業は本来あるべき当たり前で自然なこととして感じられるようになる。それらに目を向けなければ、本人への心理的な負担、組織への損失、金銭的な打撃が後々になって膨れ上がることになるのだ。
HBR.ORG原文:The Most Important Predictor of Sales Success Philip Delves Broughton June 27, 2012
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フィリップ・デルブス・ブロートン
(Philip Delves Broughton)
『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』(プレジデント社)の著者。フィナンシャルタイムズ、ウォールストリートジャーナル、スペクテイターへ定期的に寄稿している。