顧客に対するささやかな親切が、目撃者によってネットに投稿され、瞬時に美談として拡散される。これは単なる「バイラル効果」というだけでなく、より重要な別のことを象徴している、と筆者テイラーは指摘する。そうした親切が珍しくなってしまったこと、そして人々がいつの世にも企業の人間的な側面を望んでいることだ。
最近、ネット上で話題になった心温まる話がある。1人の青年と闘病中の祖母、そしてパネラ・ブレッド(米国大手外食チェーン)のクラムチャウダーにまつわるものだ。このささやかなエピソードは、サービスとブランドのあり方、そしてビジネスの人間的な側面について大きな教訓を与えてくれる。人間らしさを犠牲にした効率の追求が、なぜ不毛なのかを伝えるものだ。
広告業界誌のアドウィークに掲載された顛末はこうだ(英文記事はこちら)。ニューハンプシャー州ウィルトンに住むブランドン・クックは、末期がんで苦しむ祖母を見舞うために病院を訪れた。彼女は「どうしてもスープが欲しい」と孫に訴える。病院のスープは、まずくて食べられたものではないというのだ(実際にはもっと露骨な表現が使われた)。「大好きなパネラ・ブレッドのクラムチャウダーが食べられたら!」
困ったことに、クラムチャウダーは金曜日限定のメニューだ。そこでブランドンは近くの店舗に電話をかけ、店長のスザンヌ・フォーティアに事情を打ち明けた。すると店長は、ブランドンの祖母のために特別にクラムチャウダーを用意してくれた。のみならず、スタッフからのお見舞いとして、クッキーを1箱添えてくれたという。
普通なら、見出しを飾ることもないささやかな親切だ。しかし、ブランドンはフェイスブックにこの体験をつづり、母親のゲイル・クックは、パネラ・ブレッドがフェイスブックに開設しているファンページにこの話を転載した。その後はソーシャルメディアならではの展開だ。ゲイルの投稿には50万の「いいね!」が集まり(増え続けている)、2万2000件以上のコメントが寄せられた。そしてパネラは、通常の広告では到底買うことのできないもの――世界中の顧客からの純粋な共感と賞賛を得ることになった。
マーケティングの観点からいえば、これはソーシャルメディアの力と「バーチャルなクチコミ」が企業の評判を高めた好例である、というのが教訓だ。だが私は、店長の行動に対する人々の反応は、何か別のものも表していると考える。それは顧客や従業員、さらには私たちの誰もが抱く、企業との間に金銭以上の結びつきを持ちたいという渇望だ。技術の絶え間ない進歩によって形を変え続ける世界で、人間らしさを再認識させてくれる思いやりや結びつきは際立つのだ。
私はブランドンと祖母の記事を読みながら、アマゾンの創業者兼CEOジェフ・ベゾスが言ったことを思い出していた。彼が2010年に、私の母校プリンストン大学の卒業生に贈った言葉だ。ベゾスと言えば、テクノロジーの達人以外の何者でもない。インターネットの発展と自身の知性を頼りに会社を興し、一財産を築いた人物だ。しかしその日ベゾスが語ったのは、コンピューターの威力についてではなく、知力についてでもない。自分の祖母のこと、そして祖母を泣かせてしまった時に学んだことだった。