第3のポイント:汎用性・拡張性を検証せよ
また、汎用性・拡張性があるかどうか、といった視点も重要である。最も効果が高そうなことで始め、得られた知見を横展開(スケールアウト)していけるかどうかを初期の段階から意識しておく必要がある。繰り返しになるが、目的は限られた財源やリソースで最も効率的なビジネスオペレーションや新たな顧客価値、市民体験(Heart touchingなサービス提供)を実現することなのである。
例えば自治体であれば、その自治体に非常にユニークなものであると、その横展開は難しい。福岡県久山町にあるコホート(疫学調査)データは非常に大きなボリュームがあるし、滋賀県にあるゲノム解析データを保有する自治体も、非常に希少なデータを保持しているが、そのデータ基盤を元に何らかの医療サービスモデルを他の自治体に横展開しようとした場合、学習するデータ自体が他の自治体に存在せずに展開が厳しいというケースもあるだろう。
逆に訪日外国人観光サービスの高度化のような領域であれば、Wi-Fiアクセスログは非常に汎用性が高く、そのログを解析するだけで、その訪日観光客の使用言語、使用するプリファード航空会社、ホテル、スポーツ関連観光地が好きな客なのか、温泉街を志向しているのか、銀行で申告している所得レンジと反して、実は消費癖の高い観光客か、そうでない観光客か、レンタカー派か公共交通手段派かなどまで、個人プロファイリングしていくことが可能(個人から許可を得て、対象企業とのデータ結合をした前提を一部含む)なのだ。ひとたびそうしたプロファイリング・モデルを構築できれば、他の自治体の観光政策に生かすことは容易にできるはずである。
デジタルは、バーチャルとリアルの垣根をなくすことに成功しただけではなく、業界縦割りで考えられてきた(銀行なら銀行の顧客情報データ=CIFデータ、ホテル業界ならホテルの宿泊取引明細、コンビニならコンビニのID-POSデータのみといった具合)情報を、新たなセンサーデータで横抜きに結合し、新たな顧客プロファイリング像を元に、全く新しいサービスモデルを提供する可能性を秘めているのだ。
そうした可能性を実現できる企業とは、どのような組織だろうか。次回はアナリティクスの導入で成功した企業に見られる特徴と、組織運営方法について解説する。(続く)
アクセンチュア株式会社 アクセンチュア アナリティクス日本統括 マネジング・ディレクター。
慶應義塾大学商学部卒業後、アクセンチュア入社。経営コンサルタントとして事業戦略等の策定に従事した後、公共政策を学ぶため、退職留学。コロンビア大学で環境科学政策を研究し修士号を取得。カーネギーメロン大学情報工学修士号取得。ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。11年に帰国し、アクセンチュアに復帰。13年6月より現職。著書に『データサイエンス超入門〜ビジネスで役立つ「統計学」の本当の活かし方』(共著、日経BP社、2013年)、『これからデータ分析を始めたい人のための本』(PHP研究所、2013年)がある。慶應義塾大学SFCデータビジネス創造ラボ上席所員・データサイエンス講師、会津大学 ソーシャルサイエンスプログラム客員教授。
アクセンチュア株式会社 アクセンチュア アナリティクス シニア・マネジャー。
慶應義塾大学経済学部卒業後、アクセンチュア入社。主に中央官庁に向けた政策評価、業務改革、ITアウトソーシングの推進などに携わる。平成23年度より2ヵ年にわたり国土交通省情報化統括責任者(CIO)補佐官に就任。現在は、コンサルティング業務と並行して、慶應義塾大学SFC研究所 訪問研究員として「わが国の人口減少問題とアナリティクスを活用した公共サービスの変革」をテーマとして、研究活動、社内外への情報発信と啓発活動を展開している。
アクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部 シニア・マネジャー。
慶應義塾大学大学院理工学研究科博士課程修了 理学博士。アクセンチュアにてAFS[Accenture Fulfillment Service]、ARS[Accenture Recommend Service]など、アナリティクスソリューションのシステム開発を指揮。また、それらアナリティクスソリューションのデリバリー責任者として多数のプロジェクトにかかわり、分析結果を活用した業務改革を実現。アナリティクス領域以外でも、大手ハイテク・通信キャリアを中心に、大規模基幹系システムのシステム導入経験多数。