狂っていると思われるほどミッションを突き詰める
――28歳の若さで社長に就任されたとき、社員の反応はいかがでしたか。
期待と不安の両方があると思います。営業本部長時代、店舗を回ってあらゆる問題を解決していました、その場ですぐに。部屋が寒いと言われれば暖房をつけて、棚がないと言われれば棚をつけて、これまでは経営陣に何度上げても改善されず、改善されたとしても1年もかかっていたものが、1週間で改善されるようになった。それを見ていた人は、何かが変わるかもしれないと期待してくれています。また、若手の社員は、僕たちのことをわかってくれる人がきたと思ってくれています。
一方で、あんな若いやつが社長になって大丈夫かな、あいつに任せていいのかなという不安はあると思います。実際に店舗を回っているので、彼らの反応を見ているとそうしたことを感じますね。この人はポジティブだな、この人は自分に対してまだまだ懐疑的だろうな、と。
――再建の場合、社内の抵抗にあって改革がうまくいかない例は少なくないと思います。そうした心配はありませんか。
抵抗勢力はないと思いますが、以前は、本当に大切なことを変えずに、よくわからないことばかりが変わっていたので、そう簡単に信頼できない気持ちも理解できます。懐疑的で当たり前だと思いますよ。40年以上の歴史がある会社の社長にこんなに若いやつがなったら、普通に考えて、40、50、60歳の人は心配なはずです。そこは当たり前のこととして、コミュニケーションを取っていくことなのかなと思っています。
基本的に、いまは経営と現場の向いている方向が同じだと思います。みんなが会社を良くしたい、経済的にも満たされて楽しく働きたいと思っています。まだ私を信用し切れていない人も、コミュニケーションが足りていないだけかもしれません。そこはコツコツと、地道に続けていきたいですね。
一方で、コツコツだけでは非線形な変化は訪れないので、ガラっと変えるためには象徴的なこともやらなければいけません。それは旗艦店をつくることかもしれませんし、ユニフォームを変えることかもしれません。現場にとっても、お客さまにとっても、わかりやすい象徴的な大きいアクションをやることで会社を変えていきたいと思います。
――営業本部長から社長という肩書きになって、気持ちの変化はありますか。
自分が会社のリーダーなので、自分だけはぶれてはいけないとあらためて思いました。これも前職の山口(マザーハウス代表取締役社長・山口絵理子氏)から学んだことですが、彼女は、会社としてこれを達成したいというビジョン、ミッションからまったくぶれません。この人は狂っているんじゃないかと思うくらいぶれないんです。本当にそれしか考えていないと周囲もわかるほど、突き詰めています。
もし、途上国から世界で通用するブランドをつくりたい、と言っているのに、アメリカで生産してみよう、一部は日本でやってみようとなれば信用されません。たとえ短期的には利益になるとしても、「この人はその程度か」「あの言葉はウソなんだな」と思われて、みんな離れていきます。山口は、「本気でこんなこと信じているのか」と思ってしまうほど徹底的にやっていました。ソフトバンクの孫さんしかり、ユニクロの柳井さんしかり、優れた経営者はそういう「振り切った」部分を持っていると思います。
――ときに独善的だと言われてしまうこともあると思いますが、経営者にはそれが大切だと。
そう思います。とにかく主観が強烈です。客観的なデータに流されて、ミッションからぶれてしまうと一気に冷めていきます。実は、うちも過去はそうでした。お客さまにいいサービスを提供したいと言いながら、コスト、コストでマーケティング費を削ったり、本当はいいサービスでも短期的なコストだけ考えて導入していなかったことがありました。なかには、長期的に考えればペイするはずのものがありますが、それもやってこなかった。それでは、お客さまだけでなく、社員の心も会社から離れてしまいます。
会社のミッション、ビジョンを掲げるのであれば、そこから一歩もぶれてはいけません。社員の見る目も、営業本部長と社長ではまったく違ってくるので、一挙手一投足に気をつけています。私がぶれたら全員がぶれてしまう、そう考えると社長に就任したことでその責任感が一層増しました。