2013年の夏、キッド・ロックは画期的な価格設定を発表した。各コンサート会場で最もよい1000席を除き、全席20ドルでチケットを販売するというものだ。「プラチナ席」1000席の価格は、60~350ドルにわたった。この戦略は大成功し、コンサートの主催者であるライブ・ネーションに「信じられないほどのマネーメーカー」と言わしめた。たとえばシカゴ公演の動員数は、前回は1万5000人だったが今回は2万8000人だった。同じように重要なことだが、この戦略によって、「キッド・ロックはチケット価格に対して公平なミュージシャンンだ」とされてイメージが上がった。チケット収入が増え、動員数も増え、ブランドも強化されるという3連勝を遂げたのだ。
とりわけ素晴らしかったのは、プレミアム価格のプラチナ席という存在がファンに受け入れられたことだ。ロック音楽のファンは、値段の高さ(すぐに「ぼったくりだ」と叫ぶ)、そして「金持ちだけがいい席に座れる」という考え方の両方に敏感なことで悪名高い(「真のファンこそが前列にいくべきだ」と主張する)。キッド・ロックは、高額の席を設けることでほとんどの人が20ドルという安価でチケットを買えるということを率直に、そして見事に説明した。
考えてみればウーバーの正規運賃と割増運賃は、キッド・ロックの20ドルチケットとプラチナチケットに似ている。割増運賃はごく限定的であり、バレンタインデーの週の間に割増が適用されたのは全利用数の5.6%にすぎないと主張している。ウーバーはその価値提案について、声を大にして簡潔明瞭に伝える必要がある。つまり、優良なサービス(定期的な利用者として私も保証する)を、ほとんどの場合安く提供しているということだ。ピーク時に割増運賃を適用することで、サービスの基準を高く維持すると同時に低価格での利用を補填している。この「クロス・サブシディ」(内部補填。支払える人から多くを請求し、不採算部分を補填すること)という言い方であれば、「市場に任せる」という非情な経済原理よりも消費者への響きがよい。ただし割増運賃のテクニカルな詳細については、説明すべきではない。価格戦略の説明は法廷用の宣誓供述書に似ており、説明すればするほど批判に晒される。だから簡潔にしておくほうがよい。
こうした説明によって、ドライバーの稼働に関する方針を変更する際にも柔軟な対応ができる。現在、ドライバーには決まったスケジュールがなく、好きな時に働くことができる。これは経済学者が呼ぶ「クリームスキミング」(収益性の高い分野にのみサービスを提供する「いいとこ取り」)につながる可能性がある。つまり、運賃が高い時にしか仕事をしないドライバーが出てくる。先日、あるウーバーX(格安サービス)のドライバーは私に「5ドルのために精を出すのはばかばかしい」とこぼした。ウーバーはやがて、優良なドライバーとサービスを維持するために、割増期間中の高額請求の機会を制限するようになるかもしれない。その権利をオフピーク時にも働くドライバーに優先的に与えるのだ(したがって意図的に供給を抑制する)。レストランのウェイターが、週末に多額のチップを稼ぐために不本意なシフトでも受け入れるのと同じだ。
ウーバーの優れた価格戦略は、ハイヤー業界を一変させる可能性を秘めている。どんな新しい企業にも、初期のやり方を改善する余地は常にある。PR部門をずっと苦しめてきた「割増運賃の正当化」という課題を、ウーバーは最優先にしなければならない。
HBR.ORG原文:Why Uber Needs Clearer Pricing March 4, 2014
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ラフィ・モハメド (Rafi Mohammed)
企業の価格戦略を支援するカルチャー・オブ・プロフィットの創設者。著書にThe 1% Windfall(HarperBusiness, 2010)がある。