明確な財務指標を設定すれば、それを満たさないアイデアに無駄な時間を費やす事態を避けられる。指標を達成するために必要な条件を明確にするようチームに要請しよう。そうすれば大きな投資がなされる前に、実証すべき重要な前提条件を特定するようになる。

 他にも、検討に値するさまざまな制約がある。たとえばターゲット市場を特定の地域に絞る、大型買収に頼らず自社のみで実現可能なアイデアに集中する、自社の製品・ブランドのポートフォリオのうち特定の部分に焦点を絞るなどだ。これらの制約は取り組みの選択肢を限定するかもしれないが、同時にクリエイティブな発想を促す可能性もある。経営陣が絶対に承認しないであろう選択肢の追求に時間を浪費するという事態から、チームを救うことにもなる。

 ただし、企業が取り除くべきでない選択肢が3つある――その選択肢をどれほど幹部が望まなくてもだ(実際に、幹部たちは往々にしてそれらの選択肢を排除したがる)。第一は、自社の既存製品・サービスと競合する可能性のある選択肢だ。カニバリゼーション(市場の食い合い)という用語は、多くの企業の会議室で忌むべき言葉として扱われている。たしかに通常であれば、自社ではなく他社の事業から儲けを奪うほうがいいだろう。だが(イノベーションという)創造的な破壊のプロセスは、少なくともある程度のカニバリゼーションを必然的に引き起こすものだ。そして好むと好まざるとにかかわらず、あなたが自社の既存事業と食い合う何かを思いつけるのであれば、いずれは競合相手もそれを思いつくはずだ。

 排除してはならない選択肢の2つ目は、自社の既存製品・サービスよりも性能面で劣るものを検討することだ。企業は多くの場合、破壊的な選択肢を「劣っている」と見なして棄却する。アレクサンダー・グラハム・ベルが、自分の発明した電話機を当時の電信会社ウェスタンユニオンに売却しようとした時の有名な話を覚えておいでだろうか。音声を数マイル先に送れるにすぎないという理由で、この発明は「電気のおもちゃ」と見なされ却下された。またソニーもかつて、携帯用MP3プレーヤーを「音質が劣る」として一蹴した。破壊的なソリューションは、実際には劣っているわけではない。ただ「異なる」だけだ。破壊的イノベーターは、性能と他の優位性(利便性、シンプルさ、手頃な価格など)とのトレードオフを巧みに行う。市場の需要はすぐに変化するので、性能以外の面で競争することを嫌う企業は取り残されることが多い。

 最後に、上市の際に現在自社が利用しているのとは異なるチャネルを構築、利用することを禁じるべきではない。消費財企業が既存の小売業者を、大企業を相手にB2B企業が自社直属の営業部隊を活用したいと思うことは当然であろう。しかし破壊的アイデアが既存のチャネルを通じて市場にもたらされることは、めったにない。たとえば新聞社は、既存の広告営業部隊を使ってデジタル広告を販売しようとした時、途方もない困難に直面した。

 大企業はリソース面で有利であっても、このような制約の心配がない新興企業に後れを取りがちだ。制約への配慮が不適切であれば、チームはどうせ却下されるアイデアに無駄な時間を費やしたり、長期的なインパクトが見込まれる破壊的アイデアを退けたりするはめになる。だが賢く適用すれば、制約は企業が成功するチャンスを高めるのだ。


HBR.ORG原文:Set Your Innovation Teams on the Right Path October 15, 2013

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。
同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)などがある。