手の内が見えにくく、変化への対応も俊敏であったが故に、コンサルティング業界は長らくの間、製造業その他に起きたような破壊的変化の脅威を免れてきた。しかし、クリステンセン氏が2013年10月にHBRに寄稿した“Consulting on the Cusp of Disruption”(邦訳DHBR2014年4月号「コンサルティング業界は変われるか」)によると、知識の普及とオープン化が進むにつれて、その優位性は脅かされつつあり、コンサルティング業界も破壊的変化に見舞われるという。ボストン コンサルティング グループ会長のハンスポール・バークナー氏に、クリステンセン氏の論考に対する見解を聞いた。
いま起きている変化は、コンサルティング業界を豊かにする

ハンスポール・バークナー (Dr. Hans-Paul Bürkner) ボストン コンサルティング グループ会長。2003年に、欧州出身者としては初めてボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)のCEOに就任し、2012年まで務める。 コメルツバンクを経て、81年BCGミュンヘン・オフィスに入社。82年のデュッセルドルフ・オフィス、91年のフランクフルト・オフィスの開設メンバー。CEO 就任前までは、BCGグローバルの金融グループのリーダー。 現在は、フランクフルト、ジャカルタ、モスクワにオフィスを構え、世界中のオフィスのサポートに尽力。
編集部(以下色文字):クリステンセン氏が寄稿した「コンサルティング業界は変われるか」では、コンサルティング業界にも破壊的変化が訪れると述べられています。これについてどのようにお考えでしょうか。
バークナー(以下略):私はこの論文も拝読しましたし、クリステンセン氏は70年代後半から80年代にBCGに勤めていました。また、2013年のこの論文が出た直後にもお話しさせていただきました。
まずしっかりと認識しておくべきことは、コンサルティング業界も含めたすべての業界が、常に変化の嵐にさらされているということです。これは前提として認識すべきことだと思います。もちろんビッグデータ関連技術の発展や知識のオープン化はコンサルティング業界に影響を及ぼしています。しかし、ここで理解すべき重要なポイントは、コンサルティングファームは情報収集や分析以上に非常に幅広くかつ深く、顧客のサポートを行っていることです。
私が1981年にコンサルティングの仕事を始めた当初は、情報を収集したり、分析したりする仕事が大半を占めていました。しかし、現在ではこれらの仕事は全体のほんの一部に過ぎません。現在、力点を置いているのは、顧客と一緒に仕事をしながら、大きな変革を遂げていくようにサポートしていく仕事です。
もちろん、いま叫ばれているビッグデータやアナリティクスというものは、コンサルティングをする上での、重要なツールであることは間違いありません。大手のコンサルティングファームは自社でそのようなノウハウやツールをもっているでしょう。あるいはノウハウを持った企業を傘下に収めるか、なんらかの提携を組んでいると思います。サービスの一環として、ビッグデータやアナリティクスを使ったサービスを提案していくことも求められるでしょう。
しかし、ビッグデータ関連技術や知識のオープン化によって、伝統的なコンサルティングファームが、データを扱う新しいスタートアップ企業や、バリューチェーンの一部に特化した専門ファームに取って代わられてしまうとは考えておりません。むしろ、コンサルティング業界の裾野が広がり、より深みが増していると思います。
コンサルティング業界周辺の付加的なサービスにはなると思いますが、今回の論文でクリステンセン氏が言っているような破壊的な変化にはならないと思います。伝統的コンサルティングファームのサービスが深みを増し、幅が出てくることはあっても、陳腐化し、前世期の遺物のようにはならないのです。
新たに登場するスタートアップ企業などが、自分たちの領域を侵す競合とはなり得ない。そのような危機感はあまり抱いていないということでしょうか。
業界の変化には常に目を光らせ、受け止めなければならないとの認識は持っています。ビッグデータの解析やそれに基づくコンサルティングを、ITベンチャーが始めていくのなら、伝統的なコンサルティングファームも、自分たちの提供しているサービスのなかに、これらを取り込むことが大切です。時代の変化を取り入れていく限りにおいて、伝統的なコンサルティングファームも、時代の変化の恩恵を受けられると思います。
変化には時には破壊という側面もあると思いますが、私はこのような破壊は非常にポジティブなものだと認識しています。
テクノロジー系のコンサルティングファームもありますが、これらの企業はデータ解析にも長けており、一層強くなっていると感じます。もちろん一連の変化を我々は重く受け止めるべきですが、小規模の新しいスタートアップの企業よりも、しっかりと市場に根差しているテクノロジー系の会社の方が、より脅威になる可能性はあるでしょう。
私たちは、常に変化に応じて、自分たちの動きを考えていかなければなりません。同時に変化の過程でそこから生まれてくる機会やチャンスを理解し、取り込む必要があります。
BCGも、これまで50年を超える歴史の中で、コンスタントに自分たちのあり方、ポジションを再定義し続けてきました。自己刷新をし続けてきた結果として、いまがあると思っています。いま起こっている変化も、コンサルティング業界をより深く豊かなものにこそすれ、論文で言っているようなコンサルティング業界を破壊的に変えてしまうものではないと思います。