顧客のパートナーとして歩む必要性

アワリーナードのような、これまでにないビジネスモデルの企業も、実際に出てきています。そのような企業についてはどのようにお考えでしょうか。

 実はこのような企業の登場は晴天の霹靂ではありません。これまでにも、フリーランスのコンサルタントという仕事は世の中にありましたし、短期間のコンサルタントをやりますよ、という人たちのためのプラットフォームもありました。

 現在、オンラインのネットワークが出来てきていますので、以前に比べるとフリーランスのコンサルタントにリーチ出来るチャンスは、豊富になったと思います。たとえばイノセンティブ(注)といったイノベーション・マーケットプレースも登場しています。顧客がオンライン上で科学者や技術者など各専門家から成るコミュニティに課題を提示します。それに対して、様々なソリューションが提示されます。有用なものに対価が付く場合もあれば、対価が付かないような場合もあるというやり方です。

 つまり、アワリーナードが行っているような、一定のタスクをお願いしたいと提示し、実際そこに入札するような形で仕事を請け負うようなモデル自体は、そんなに目新しいものではありません。そして、実際には非常にうまく、分かりやすく定義をしたタスクが依頼されてくるのだと思います。しかし、全てのタスクがそんなに簡単なものではありません。非常に複雑なタスクになると、上手く課題を定義して入札にかけるということは困難でしょう。またそういった入札方式でやっていくと、最終的に成果物として出てくるソリューションが、どれほどのものか容易には想像できないと思います。

 何年か前に、コンサルティングファームが、オンラインのソリューション・ファインダーというサービスを始めたことがありました。例えばマトリックス形式のフレームにデータを入力していけば、自動的に答えが出るというものです。もちろんシンプルな問題ですと、このようなサービスも有効でしょう。しかし、自分たちの事業を変えていくような、大きな変化に関わるものになると、一朝一夕で答えは出ませんし、問題自体の最終的な結論は出ても、簡単に実行できません。

 日本にもあると思うのですが、海外でも彼女や彼氏を探すオンラインデータサービスがあります。自分の興味、現在どんなことをしているか、どんな人を求めているか、などからマッチングするだけでなく、年齢などデータを基に統計的に良さそうな組み合わせを導くこともできます。データだけを照らし合わせれば上手くいく組み合わせですが、実際に会うと相性が悪く、上手くいかなかったということはよくあると思います。なぜ上手くいかなかったのでしょう。自分が正確な情報を入力しなかったのか。あるいは相手がそうだったのか。仮に、全ての情報を誇張せず、正直にお互いが入力し、相手が導き出されたとしても、相性が合わずに上手くいかないことはあるでしょう。

 それと同じように、顧客企業とコンサルティングファームとの間にも相性があります。データ化された情報の部分のマッチングさえできればいいのではなく、人間同士の情緒的な繋がりや、この人を信用できるので一緒に仕事が出来るな、というところまで踏まえれば、よいマッチングに繋がりますし、よい成果が生まれます。ソリューションを単に出すだけではなく、顧客が本当に変われるように、変わっていくようにすることが大事です。私たちは顧客が変われる能力を身に付けるためのお手伝いをしているので、相性がとても重要です。

シンプルな課題に対して解決策を提示するようなサービスは、新興の企業が担うかもしれず、そこでのシェアは失われるかもしれない。けれども、複雑な問題解決に関しては、伝統的なコンサルティングファームが、これまで同様強さを発揮するということでしょうか。

 そうなのですが、すごくシンプルな問題、すごくシンプルなソリューションというのは、私どもは提供していないので、シェアを取られているということはありません。アワリーナードのサービスは、伝統的なコンサルティングファームと競合はしていないとブログ記事にも書いてあったと思います。

 もちろん、そういった企業が競合していない段階から力をつけてきて、競合となり得るかどうかは、これからの問題だと思います。こういった他社も含めて、どんな競合他社も軽んじるつもりはありません。どんなに新しい競合他社が出てこようとも、注意深く重く受け止めて、変化の一部として見逃さないようにしたいと思っています。

 

(注)イノセンティブとは課題解決に取り組む、多様な分野のフリーランサーと組織とをつなぐオンライン・マーケットプレース。イノセンティブの仕組みついては、DHBR2013年9月号にイノセンティブ社長兼CEOが寄せた『クラウドから知恵を引き出す「正しい問い」のつくり方』を参照。