アップルにみる統合戦略

 アップルのiPhoneは、大ヒットした商品といえる。しかし、アップルが、素朴なマーケット・インによって製品開発をしてきた企業だと思う人はほとんどいない。多くの人が認めるのは、創業者のスティーブ・ジョブズをはじめとしたクリエイティブな開発者が、アイデアをもとに作り上げた商品であって、極めて技術プッシュ的な商品ということだ。これに対して、日本企業は「作りっぱなし」の技術プッシュである点が、アップルと異なる。

 アップルは、自分たちのアイデアや信じる価値概念を顧客に伝えるために、流通、広告宣伝、パブリシティといったあらゆる手段を使って顧客に繰り返し訴えかけた。結果、アップルの製品コンセプトが新たな価値として顧客に受け入れられたのである。統合活動のもうひとつの側面は、企業内部の活動をまとめ上げる統合のプロセスである。アップルの場合、開発、生産、販売、間接部門の全てがアップルの製品価値を顧客に伝えるために一つのチームとしてストーリーを作り上げている。一方、日本企業では、(これは我々大学側にも責任の一端があるかもしれないが)理系、文系という厳格な区分のもと、製品の開発・製造に関わるのは理系、マーケティングや販売に関わるのは文系と明確な線引きをしてしまった。そのため、作るところから売るところまでを統合的にマネージすることが難しい のではないだろうか。

 日本の家電メーカーでB2Bビジネスにシフトした企業ほど、早いタイミングで業績回復が進んでいる。B2Bでは顧客が特定され、顧客自身が技術や製品に対する知識を豊富に有しているので、マーケティングを十分に行わなくても、製品が持つ技術的価値を伝えることができる。つまり、日本企業の構造的な問題を根本的に解決することなく、従来のスタイルでアプローチできる市場にシフトしたということである。これはこれで、正しい選択肢である。

 一方、家電などのB2Cの事業は、韓国、中国、台湾メーカーかなわないのか。おそらくそうではないだろう。アップルはれっきとしたアメリカ企業であり、B2Cで成功した企業である。アメリカも、日本の家電産業の隆盛によって撤退に追い込まれたと認識されてきた。そうしたアメリカ企業の中にも強いメーカーは存在している。日本の家電メーカーも新たにつくり出した製品の価値を、様々な考えや志向を持つ顧客に対してしっかり伝えていくことができれば、まだまだチャンスは残されている。

 日本メーカーが既にできていることは、新しい価値のポテンシャルを持った製品を作り出すことであるが、その価値のポテンシャルを、顧客にきちんと伝え、本物の価値にすることは出来ていない。そのために必要なのが、新たな製品コンセプトと消費者の間の統合(外部統合)を進めることと、そのために企業内部の組織を総動員してあらゆる手段をとること(内部統合)の2つであり、技術を重要な戦略ツールにしつつも全てではない、本物の戦略が求められている。