組織が個人の創造性を育てることは可能か

――とはいえ、創造性において世界随一のIDEOに入社したら、どんなに自信がある人でも萎縮してしまいませんか。

写真を拡大
トム・ケリー氏
IDEOパートナー。兄のデイヴィッドとともに、IDEOをわずか15人のデザイナー集団から従業員600人の会社へと成長させた。シリコンバレーや東京など世界10カ所にオフィスを持つ。主な著書に『発想する会社!』『イノベーションの達人!』(ともに早川書房)、『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)。 (写真:鈴木愛子)

 競争を前提にして考えるから、そう思うのではないでしょうか。競争を前提とした文化の中では、お互い相手をねじ伏せようとして、どんなアイデアを披露しても「その考え方は間違っている」などと批判的なフィードバックが返ってきます。しかし、クリエイティブな文化とは、助け合いの文化であり、共創の文化です。

 IDEOでは、たとえあなたのアイデアが完璧なものではなかったとしても、「面白いね、それならこんなふうにしたらどうかな」「こういう考え方をしてみたら、もっと良くなるかもしれないね」と、いろいろな人がヒントをくれます。するとアイデアは少しずつ良いものとなり、数週間後には、自分はクリエイティブだと感じられるようになるでしょう。誰もが助けてもらう経験をしているので、自分も他の人をサポートしようとするのです。

 私が本を書くことができたのも、IDEOの文化のおかげです。以前の私には、本を書く自信はまるでなかったのですが、仲間に支えられて最初の本『発想する会社』を上梓することができました。また、45歳まで、一度も講演をしたことがなかったのですが、IDEOのサポートを得て、すでに年間40回以上、述べ500回以上の講演をこなしています。これも最初の後押しがあったからこそです。

――助け合いの文化はどのように生まれるのでしょうか。

 特別な方法があるわけではないのですが、上司と部下を例にとって考えてみましょう。もし、上司が部下のアイデアに対し、毎度のように「君のアイデアは完璧から程遠い。もっときちんとしたものを持ってこい」と言って、部下を落ち込ませ、自信を失わせるようなことをしていたら、どうなるでしょうか。部下はアイデアを完璧にすることばかりに力を注ぎ、思いついたばかりのアイデアや、未完成のアイデアを上司に見せなくなります。あるいは、上司が怖くてアイデアを見せること自体を止めてしまうかもしれません。

 逆に、上司が部下の持ってきた未完成なアイデアについて、表面的な細かい部分は脇に置き、ぐっと目を細めてそのアイデアの核となる本質的な部分を見極めるのです。そして、建設的なフィードバックを与えれば、その部下は創造性を発揮し、アイデアを磨くようになります。

 どれほど稚拙なアイデアでも、どうしたら良くなるか、実現できるか、アドバイスしてあげてください。すると、このマネジャーはアイデアを認めてくれると思われるようになり、部下たちから、完璧ではなくとも新鮮なアイデアが数多く集まるようになります。

 新鮮なアイデアを数多く目にすることで、人はより賢くなります。多くのアイデアを集めるマネジャーは、社内で最も賢くクリエイティブなマネジャーとなるでしょう。同時に、組織内に斬新で新鮮なアイデアをスピーディに出し合う文化を醸成することができます。

 創造力に対する自信は1人でも獲得できますが、助け合いの文化のある人的ネットワークの中にいる方が、より効果的です。前述のジルに対してIDEOは直接働きかけたわけではありませんが、プライベートの場で獲得した自信が仕事上の自信につながったのは、ややはりIDEOで周囲のサポートを得られたからだと思います。

(つづく)

*次回は8月21日公開予定。

 

【関連記事】
「クラウド・コンテスト」を成功させる5つの要諦
組織の創造性を育む3つの要素
IDEOの創造性は助け合いから生まれる