IDEOは助け合いの文化によって、個々人がアイデアを出しやすく育てやすい環境をつくり、組織の創造性を高めている。それを社外に広げ、オープン・イノベーションの仕組みを取ったのがOpen-IDEOである。そこではDQ(デザイン指数)を取り入れ、参加者の貢献度を可視化している。IDEOパートナー、トム・ケリー氏に聞いた(前編はこちら)。
日本は十分にクリエイティブである

IDEOパートナー、トム・ケリー氏。(写真:鈴木愛子)
創造力を高める方法として、余白の時間を持つというやり方があります。スリーエムの15%ルール、グーグルの20%ルールなど、就業時間の一部を、直接業務と関係ない興味ある分野の探究活動に充てて良い、とする制度があります。これらの会社を訪ねてみると、実際は仕事の時間を80%、85%にしているわけではなく、ほぼ100%の時間を仕事に費やし、プラス15%、20%の時間を特別な活動に充てていることがわかります。時間配分に意味があるわけではなく、そうした活動を行うことを「許されて」いることに意味があるのです。日本人の真面目な労働観は素晴らしいのですが、ちょっとした余白を許すことで、創造力に対する自信を獲得するカギとなるように思います。
歴史的に大きな発見、イノベーションは、白昼夢(Daydreaming)の状態で起こることが多い、とされています。私はこの状態を名付け直し、「リラックスした注意」(Relaxed Attention)と呼んでいます。100%集中している状態でもなければ、スマホでメールのチェックやゲームをやっているような状態でもありません。リラックスしながらぼんやりとアイデアを浮かばせる、力を入れすぎない状態をつくるということも、創造性を発揮するための、大切な要素なのです。
――日本人はとかくインプットに力を入れがちです。しかし、詰め込むだけでなく、ぼんやりと考え消化する時間や、アプトプットする時間も必要なのですね。
その通りです。飛行機は24時間365日飛び続けているわけではありません。定期的に休ませたり、メンテナンスを行ったりするからこそ、ベスト・コンディションを保持できるわけです。組織も人も同じで、ベストを尽くして働くことはもちろん大切ですが、少しの空白の時間を活かすことで創造性を発揮でき、それが非連続なイノベーションを促し、組織が持続可能となる。かつてコダック社は、主流のフィルム事業に熱心に取り組むあまり、デジタル製品への移行期を見逃し、経営破たんという結末を迎えてしまいました。
私は日本の「頑張る」文化を尊敬していますが、いまや創造性が明暗を分ける時代が来ていることも確かで、それは目前のことを頑張ることとはベクトルが異なるのです。
日本人は、決して創造性が足りないわけではありません。日本以外の国で行った調査では、日本は世界一クリエイティブな国であり、東京は世界一クリエイティブな都市だと認識されています。特効薬が必要なのではなく、むしろ、クリエイティビティを日本の素晴らしい文化や勤勉さと組み合わせてさらに新しいものを生み出したり、若い人たちがチャレンジしやすい環境をつくったりすればよいのだと思います。