デザイン指数で貢献度合いを可視化する
――クラウド環境を使って知恵を世界中から集める「オープン・イノベーション」が注目されています。IDEOにもそのような仕組みがあるそうですね。
Open IDEOですね。世界からアイデアを募り、社会の問題を解決していく装置です。実験的な仕事の進め方で始まったこの試みこそ、IDEOらしい典型例かもしれません。きっかけは、ロンドンオフィスの若いメンバー、トム・ヒュームから送られてきたビジネスプラン提案の動画でした。5分位のものでしたが、彼のOpen IDEOにかける意気込みがあまりに強烈だったうえ、ミーティングでも情熱的にアイデアを語りかける姿に誰もが心動かされました。そのため、「彼を止めるべきだという意見の人はいますか?」と聞いたら、誰もいなかった。もちろん、その挑戦はリスクを伴い、コストもかかります。ですが、これほどの知識と情熱をもって挑戦しようとする若者がいたら、止める理由はありません。実際、彼は見事やってのけました。
Open IDEOは、スポンサーとなる企業や財団から出された社会的な課題に対して、オンライン上で参加者からオープンにアイデアを募り、解決方法を導くというオープン・イノベーション・プラットフォームです。参加者たちは、課題解決のためのステップをなぞりながら、知恵を出し合って、アイデアを改善していく。最終的には、投票で1つのアイデアに絞られ、スポンサー次第で事業化される可能性もあります。
――他のプラットフォームと比較したとき、Open IDEOならではの特徴、参加者のメリットはなんでしょうか。
Open IDEOでは、参加者の貢献度合いがデザイン指数(Design Quotient)として見えるようになっています。自分がどのぐらい役に立っているか、可視化することは大きなモチベーションとなります。
僕の兄ディヴィッド・ケリー(IDEO共同創設者)はよく、天秤の両サイドに、ハートとお金($マーク)を乗せた絵を書きます。情熱や文化と、お金とのバランスを示したもので、DQの考え方のベースとなっています。DQは経済的価値を算出する指数ではなく、社会関係資本を表すものです。Open IDEOの参加者は金銭面よりむしろ、世界を変えること、世界に良い影響を与えることに価値を見出しているからです。
といっても、DQに実務的な価値がまったくないわけではありません。以前、DQが最高点だった人にコミュニティ・マネジャーの仕事を依頼したことがあります。その意味では、直接お金にはならなくても、仕事に結びつく可能性は多いにあります。
DQ算出のアルゴリズムは公表できませんが、これをやれば何点、といった仕組みでは、みなポイント稼ぎに走ってしまいます。ですので、「インスピレーション(刺激・ヒント)」「コンセプト化」「評価」「コラボレーション」の4つの観点から、トータルでどの程度貢献したかを見るようにしています。
参加者はいろいろな形でDQを高めることができます。優れたアイデアが出せなくても、誰かが出したアイデアにコメントしたり、より良いアイデアを得られるよう手助けしたり、さまざまな形の貢献を評価できるようにしています。Open IDEOでは、誰がどのように関わったかが全てログに残されており、自分の貢献だけでなく、自分のアイデアを誰かが気にいると、それがポイントに加算される仕組みも備わっています。
私も『クリエイティブ・マインドセット』を執筆する際、Open IDEOに「どうしたら若い人たちの創造力に対する自信を養成することができるか」というテーマを載せたところ、170か国から素晴らしいアイデアが集まりました。
Open IDEOのベースとなるシステム「OIエンジン」は、企業でも転用が可能です。既にシェル、ニューヨーク大学など、いくつかの企業や団体に導入されています。新しくプロジェクトを進めたり、アイデアを持ち寄ったりする場を提供するもので、たとえば、ある航空会社で来月の機内食メニューについてアイデアを募集したところ、たちまち世界各国の社員から顧客満足度を高めるアイデアが集まりました。もちろん、IDEOでもOIエンジンを使っています。
――IDEOが今後、取り組んでいこうとしていることはありますか。

IDEO東京オフィスにて。(写真:鈴木愛子)
実は、国自体をクリエイティブにするというアイデアです。シンガポール政府はこの10年ほど、クリエイティブ産業振興に加え、「より人間中心なアプローチへの変更」を推進しようとしています。そのうちのいくつかのプロジェクトにIDEOが関わっています。
私は国を変える、というこのチャレンジにとてもわくわくしています。私たちはデザインの力、デザイン思考で世界を変えたいと思って活動してきましたが、これほどまでに大きなインパクトを与えるプロジェクトに関わることはなかったからです。企業の文化を変えることには何度か挑戦していますが、国の文化を変えるのは初めてです。この壮大な挑戦をとても楽しみにしています。
(了)
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