高学歴者イコール優秀なマネジャーではない

 優秀なマネジャーになれるかどうかは、学位の数や学校の成績、あるいはこれまで受けた経営教育機関の名前では判断できない。また学力は、マネジャーとしてのポテンシャルを測る物差しにはなりえない。

 実際、学力がビジネスでの成功を意味するにしても、高学歴マネジャーは神話にすぎない。

 マネジャーとしてのキャリアを築くうえで必要なことは、教室では学べない。仕事に不可欠な知識やスキルを自分の経験を通じて身につけることで、出世することができる。

 そもそも経営教育機関の目的は、経験による学習を支援することにある。しかし実際には、そのほとんどが間違った教育をしており、能力というものは経験のなかで伸びていくはずにもかかわらず、むしろ抑え込んだり、歪めたりしている。教室では覚えの早い生徒が、しばしば役員室では飲み込みが悪かったりするのはそれゆえである。

 MBA以上の高い学位を取得した学生は、新卒者のなかでも引く手あまたである。その初任給を見れば、彼ら彼女らはエリートの仲間入りを果たしたといえる。マネジメント教育の価値をまさしく証明するものである。

 高学歴ならば、少なくとも最初のうちは給料が高い。しかし、学歴がマネジャーとしての優秀さを証明するのかどうか、あるいは出世の役に立つかどうかはまた別の話である。

 ハーバード・ビジネススクール(HBS)教授(本稿執筆当時。以下すべて同様)のルイス B. ウォードが実施した調査によれば、同校のMBAホルダーの平均年収は、卒業後15年ほどでほぼ頭打ちとなり、その後は大して伸びないという[注1]。年収がうなぎ上りしていくMBAホルダーもいないわけではないが、役員を目指す人材が最も成長する時期に、たいてい出世は頭打ちになる。

 また、15年前後のビジネス経験を積んだ後にHBSの「アドバンスト・マネジメント・プログラム」(AMP)に参加したマネジャーを見てみると、多くの場合、それまで正式なマネジメント教育を受けたことがないマネジャーのほうが、HBSや他の有名ビジネススクールのMBAホルダーに比べて、平均で3割ほど年収が高いことが明らかになった。