目標の困難度は皆同じか

 ところで、先ほどから目標の困難度という言葉が繰り返し出てきているが、人の注意力や努力量などを決定づけ、モチベーションの向上に役立つとされるこの「困難度」という言葉に、少し疑問を持っている方も多いのではないだろうか。そもそも、困難度とは個人が感じる主観的なものである。

 例えば、ある上司とある部下との間で、部下の目標を設定する場面があったとする。この場合、上司が目標の困難度を評価することが大事なのか、それとも部下がどの程度目標を困難と感じることが大事なのか。また、困難度と一言でいっても、どの程度の困難度を示すのか。著しく難しいと感じるレベルなのか、そこそこ難しいと感じるレベルなのか、単に困難度といわれても、そのレベル感がわかりにくい。

 この問いを考えるにあたり、心理学者のジョン・アトキンソン(John Atkinson)教授が理論化した「達成動機理論」(Achievement Motivation Theory)の考え方が大変参考になる。アトキンソンは、人の達成行動を考える上で、人間の中に両立する2つの異なる動機に着目する。すなわち、それは「成功動機」と「失敗回避動機」である。成功動機とは、何か行動をする際に、「本当に成功したい」という気持ちをどの程度持っているかを意味する。具体的には、成功した時に得る「誇り」という感情をどの程度得たいかであるとしている。一方で、失敗回避動機は、何らかの行動をする際、「失敗を避けたい」という気持ちをどの程度持っているかで表される。具体的には、失敗した時に感じる「恥」という感情をどの程度避けたいかであるとしている。

 つまり、人はある行動をとる時に、(1)「心の底から成功したい」(=成功することから得られる「誇り」という感情を経験したい)気持ちが支配的なのか、それとも(2)「失敗だけはしたくない」(失敗した時に感じる「恥」という感情を経験したくない)気持ちが支配的なのか、程度の差こそあれ、いずれかの心理的状態に分類されるというのである。

 たしかに、我々の行動を振り返ると、仕事上、常に前者のような積極的な動機(「絶対に成功させよう!」、「成功させて凄いと思いたい(思われたい)!」など)で仕事に臨んでいるわけではない。むしろ、後者のような消極的な動機(「まあ、失敗さえしなければいいや・・」、「失敗して恥かかない程度でいいし・・」)が支配的な状況も少なからず存在する。これには個人差もあるし、また担当している仕事やプロジェクトの中身によっても変わってくるだろう。