モチベーションを左右する、部下のリスク選好の違い
実は、この(1)成功動機が支配的な状態と、(2)失敗で動機が支配的な状態とでは、個人がどのようなリスクを取りたいか、いわばリスク選好が異なることをアトキンソンは明らかにしている。具体的には図1及び図2のとおりである。

図1 成功動機が強い人・状況での達成動機と成功確率の関係
まず、図1は成功動機が失敗回避動機を上回っている人や状況での、本人の「達成動機」の大きさと本人が感じる主観的な「成功確率」との関係をグラフにしたものである。この図より、縦軸の「合成達成動機」の大きさ(つまり課題を達成したいと感じる気持ちの強さ)は、その課題に対する本人の主観的な「成功確率」(横軸)が最も低いとき(.0)と最も高いとき(1.0)に、最も低い値を示していることがわかる。一方で、合成達成動機(縦軸)が最も高まるのは、本人がその課題の成功確率をちょうど50%と認識するところ(横軸の“.5”の位置)であることがわかる。すなわち、成功したいからこの課題に取り組むと考える人にとって、最もモチベーションが高まるのは、「成功確率:失敗確率」が「50:50」の課題であると本人が認識した場合なのである。

図2 失敗回避動機が強い人・状況での達成動機と成功確率の関係
一方で、図2は先ほどの逆で、失敗回避動機が成功動機を上回っている人や状況において、本人の「達成動機」と主観的な「成功確率」との関係をグラフ化したものである。そもそも失敗回避動機が支配的なので、やり遂げたいという合成達成動機(縦軸)は0以下のマイナスの水準である。つまり、仕方ないけどやらなければいけないという状態といえる。この場合、達成動機と成功確率との関係は、先ほどの図1と真逆の曲線を描いていることがわかる。すなわち、主観的な成功確率が50%(=失敗確率も50%)と感じられるような課題は、「失敗を避けたいレベル」で課題に向き合っている人にとっては、最もやりたくない課題と認識されてしまうのである。
他方で、極めて簡単・単純な課題(=1.0)や極めて難しい課題(=.0)は、この手の人にとっては受け入れられやすいタイプの課題であることがわかる。具体的には、誰もが成功するだろう簡単な課題と本人が認知すれば、自分もたぶん失敗せずできるだろうという見込みから「まあやってもいいか」と考えるようになる。一方で、誰もが失敗するだろう極めて難しい課題と本人が認知した場合、「どうせ誰もできないような難しい課題なんだから、まあやってもいいか」という考えをもつ。失敗しても「言い訳がきく」ため、困難度が高すぎる課題でも受け入れられてしまう。このようなリスクの取り方を失敗回避型の人は取る傾向が強い。