経営学を理解するために、まずは哲学を学ぶ
入山 9月号(8月発売)から始まった『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』の連載「世界標準の経営理論」では、世界の経営学で使われている理論についてどんどん紹介していきます。実は、その第一回でこういった哲学の話を書こうと思っていたんだけど、読者が引いてしまうかと思って(笑)、連載では控えることにしました。

立命館大学経営学部 国際経営学科 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学時には、小売・ITの領域において3社を起業、4年間にわたり経営に携わる。 大学卒業後、2004年から、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に在籍。北欧、西欧、中東、アジアの9ヵ国において新規事業、経営戦略策定のプロジェクトに関わる。ハイテク、消費財、食品、エネルギー、物流、官公庁など多様な事業領域における国際経営の知見を広め、世界60ヵ国・200都市以上を訪れた。
2008年に同社退職後、オックスフォード大学大学院経営学研究科に進学し、2009年に優等修士号(経営研究)を取得。大学の助手を務めると同時に、国際経営論の研究を進める。在籍中は、非常勤のコンサルティングに関わりながら、ヨットセーリングの大学代表選手に選出されるなど、研究・教育以外にも精力的に活動した。2013年に博士号(経営学)を取得し、同年に現職。専門は国際化戦略。
著書に『領域を超える経営学』、共編著に『マッキンゼー ITの本質』(以上、ダイヤモンド社)、分担著に『East Asian Capitalism』(オックスフォード大学出版局)などがある。
琴坂 そうなんですね。とても楽しみです。実は、私が国際経営学の最初の授業で教えるのも、科学哲学の話なんですよ。学生に「だまし絵」を見せます。これがおばあさんに見える人と女の子に見える人どちらがいてもいいんです。どっちらも正しいですよね、それが解釈なんです、と。
入山 琴坂くんはオックスフォード大学の出身だから特にそういうことを知っているのかもね。たとえば、ロンドン・ビジネス・スクールではあまりやらないでしょ?
琴坂 たぶん、やらないですね。ただ、一コマ、二コマ程度、リサーチメソッドの授業では必ず触れられると思います。
入山 そうなんだ。アメリカでは普通ないなあ。僕のところはたまたまそういう教授がいたので学ぶ機会があったけど、アメリカのほうがそこの掘り下げは浅いかもしれない。
琴坂 私の理解では、アメリカのほうが本質主義をベースにしていて、経済学畑の人ほど、この話はもう触れないことにしようとなるという印象です。本質がある前提で物事を見ていこうというイメージでしょうか。
入山 なるほど。オックスフォード大学だといろいろな学問体系を持つ人がいるじゃない。アメリカの場合、超一流校は別だけど、たとえばワシントン大学の経営学Ph.D.に行くとほとんど経済学アプローチになる。社会科学全体としてどのような立ち位置をとるか、どう融合するかの意識はあまりないと思う。反対に、コーネル大学に行くと社会学が強いから、最初からそっちに浸かっちゃう可能性が高くて、反対側を見る機会は少ないかもしれないね。
僕はたまたまラッキーだったと思う。日本で経済学をバックグラウンドに持って、社会学に強いピッツバーグ大学で勉強して、隣のカーネギーメロン大学は認知心理学に強かったからそれも学べた。僕と琴坂くんはラッキーだったし、似ているかもしれないね。
琴坂 まさに。私もラッキーだったと思います。しかも、これは実は社会科学を議論する際にとても重要なことだと思います。計量経済学やゲーム理論の説明はすごくパワフルですよね。でも、彼らが議論しない前提条件の部分を解釈して、理解する必要もあると思うんですよ。
入山 とくに純粋な理系の人達にしてみれば「この人たちは何を言ってるの?」という感じだろうしね。