それでもやっぱり、経営学の研究はおもしろい

入山 まぁ、いろいろな課題もあるけど、経営学の研究はおもしろいよね。僕は、すごく頭がいいなと思った経営学者が、自分では考えつかないことをさらっと言うときは刺激を受ける。自分のなかでも好きな論文、気に入っている論文はある。結局、学者という仕事を好きだからやっていて、考えることが好きなんですよ。好きだから考えて、ある瞬間ふっとひらめくことがある。その瞬間は嬉しくて仕方ないよね。

「自分がひらめいたものがこれまでのどのインプットよりもよくて、自分がつくったという感覚を持てたときは最高です」

琴坂 まったくそうだと思います。自分がひらめいたものがこれまでのどのインプットよりもよくて、自分がつくったという感覚を持てたときは最高です。

入山 あとで見返すと、ほかの研究者がやっていることもあるけど(笑)。

琴坂 ありますね(笑)。私はフィールドリサーチャーです。著名な経営者と話をするときには、とにかく下調べをして、その人の言っていることはほとんど調べたと思って臨みます。その前提で質問していったとき、これまで誰も聞いたことのない本音を引き出せた瞬間は「やった!」という感じがあります。誰も知らなかった事実を引き出した瞬間には、これを伝えなきゃと思いますよ。

 なぜ彼らがこんな若造にそんな話をするかというと、私の先にいる人たちを見ているんですよ。私を媒介として、あるいは私がつくった作品を媒介として、未来のリーダーたちに伝えるために話している。書籍もそうですけど、そんな貴重なメッセージの集大成を発信してそれに多くの方々からフィードバックが帰ってきたときには、媒介者としての研究者の価値を感じます。『領域を超える経営学』も、さまざまな方々からの反応をいただき、まさに仕事をした、という感覚が持てました。

入山 きっと琴坂くんのほうが実務の感覚があるんだろうね。僕は、それをあんまりおもしろいと思わないから(笑)。良い悪いではなく、僕のほうが純粋な「頭でっかちな学者」なんだと思う。僕は、たとえば自分でエクセルにデータを打ち込むことが好きなんです。ラジオを聞きながら、脳みそを使わずに入力している時間が楽しくて。もちろん、そのあとで統計分析やプログラミングをするときにはそれなりに頭を使うけど、全部終わってポンッとボタンを押して自分が信じた結果が出た瞬間は「よし!」ってなります。

琴坂 その感覚は私もよくわかります。この「よし!」っていうのを自分もたくさん積み上げていきたいと思っています。

 本当はもっと話したいのですが、残念ながら時間が来てしまいました。今日はいろいろとお話をさせていただいて楽しかったです。ありがとうございました。

入山 こちらこそ。ありがとうございました。

 

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