マーケティング・ミックスの整合性を問う
マーケティングの4Pは今でもマーケティング(教育)の基礎として有効であり、実務者は皆が知っている。ただし、ここで強調しておきたいことは、4P自体が重要なのではなく、4Pがすべて同じ戦略ストーリーの上で整合していることが重要という点である。
たとえば、トヨタのレクサスは、米国では大成功したが、日本では「まだ成功していない」(とトヨタ関係者は表現するであろう)。ドイツ車の強い市場セグメントにチャレンジするという戦略においては同じであったが、日本では4Pが整合しにくかったのである。
米国で1989年にレクサスを投入した時、トヨタは50州に150社・150店舗のディーラーしか開設を認めなかった(米国では自動車ディーラーは1社1店舗という契約になっている)。最初の米国進出は1957年の米国トヨタ販売設立の時であるが、このころの日本車は「安かろう悪かろう」のイメージであり、優良なディーラー経営者を見つけることは困難であった。しかし、1980年代に品質での評判を打ち立てたトヨタは、レクサスの投入にあたって、質の高いディーラー経営者(アフターサービスの品質に理解をもつ人材)を面接して選抜できた。レクサスは、①堅実性の高い商品に対して、②同等のドイツ車をやや下回る価格付けを行い、③質の高いディーラーを開設し、④静粛性・耐久性・安全性という「目に見えない品質を訴求する広告」を打つという形で、4Pがうまく整合するマーケティング・ミックスを構築し、リピート顧客を積み上げていった。
レクサスのデザインがオーソドックスであったことは、デザイン重視の顧客(どんなに満足しても、次回は別のブランドを買う傾向が高い浮気性の顧客)には受けなかったが、逆に堅実な顧客層に受けた。このため、ディーラーのサービス品質が高い(米国の一般ディーラーの品質が低いために、レクサスは際立った印象を与えた)ことと合わせ、「次回も同じディーラーから買おう」というリピート購買につながったという。ディーラーが150店舗しかなかったことは、ディーラー間の競争による値引きを起こさせず、リピート需要を確実に自店に取り込めるという安心感をディーラー経営者に与えた。このため、ディーラー利益を人材育成に再投資し、それが顧客満足度を高めた。
一方、2005年に日本に導入されたレクサスは、最大のライバルが自社のクラウンであり、ディーラーのサービス品質がどの店舗でも既に高いという点で、米国との環境の違いがあった。①日本の狭い国土で一気に150店舗のディーラーを開設したが、既存ディーラーとの差別化を目指して派手で高級な大理石造りの店舗とした。②商品は堅実なデザインを踏襲しているが、③価格はクラウンの上に設定せざるを得ない。④高価格である以上、プロモーションは高級イメージを謳うものになる。つまり、堅実な顧客のリピートを積み上げようにも、4Pが整合したストーリーにならなかったのである。レクサス導入当初の目標は年間5万台であったが、7年後にようやく近づいてきた(2012年で43,500台)というレベルである。自ら北米で成功させたマーケティングなのに、日本では難しかったという皮肉な結果である。
単に4Pがあればよいのではない。4Pが整合していることこそが、マーケティングの要諦なのである。失敗事例(もしくは「まだ成功していない」事例)が、なぜ失敗しているのかは、4Pの不整合で説明できる場合が実に多い。コトラーは50年も前から、そのことを指摘している。
※次回は8月29日(金)公開予定
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