コトラーの真価
では、コトラーの価値はどこにあったのか。私は、「統合」と「変化対応」と「適用領域の拡大」の3つではないかと考えている。3つ目については、前回で書いたので、この回では、「統合」と「変化対応」について、分析してみたい。
1)統合
コトラーの著書『マーケティング・マネジメント』を分析してみると、コトラーが目指したのは、経済学、心理学、組織行動論、社会学、数学等を用いてマーケティングの社会科学としての基礎付けを行い、体系化することであった事がわかる。それが、多くの企業、学者、ビジネス・プロフェッショナルに受け入れられた結果、14回も版を重ね、世界でのデファクトスタンダードとなったのだ。
コトラーはそもそも「経済学」という学問体系がしっかりしたところで教育を受けてきた人物である。なので、どうやってあらゆる学問をマーケティング目的で統合することの重要性に気づいたのかが、筆者の長年の謎であった。しかし、日経の「私の履歴書」に掲載された本人の弁でその謎が解けた。
彼はポスドク時代に選抜されて、あらゆる分野に数学を応用するというハーバードのプログラムで1年間学んでいる。そこでバラエティあふれる様々な専門分野の若い学者達との議論の機会に多いに触れることができた。異分野の俊英に刺激を受け、「学際にこそ本質がある」という確信をそのプログラムで得たに違いない。
また、1960年代には、マーケティングは宣伝や販促に関わる人たちのみの専門的スキルと考えられ、経営者の必須スキルとは思われていなかった。そこでコトラーはマーケティングプロセスや組織を含めたフレームワークを作り、マネジメントと統合したのである。
さらに、近年のコトラーは、従来の統合型マーケティング、インターナル・マーケティング、社会的責任マーケティング、リレーションシップ・マーケティングを統合し、プログラム・プロセス・活動を開発し設計・実行する「ホリスティック・マーケティング」という統合フレームを提唱している。このように、いつの時代もコトラーの本質は見事な『統合者』なのである。
2)変化対応
変化への対応という点では、著書『マーケティング・マネジメント』の14回にも及ぶ改訂を見れば明らかである。毎回新しい章が書き加えられ、古い章も最新の事例でアップデートされ、その時代のバズワードを取り上げて、マーケティング理論を時代に合った形で最適化している。
またおそらくマーケティングの未来について書かれた本で、世界で最も売れた本は『コトラーのマーケティング3.0』ではないかと思われるが、それが80歳の著作であることに改めて感心せざるを得ない。常に現実を見続け、大きな潮流を掴み、時代の先端を走り続けているのだ。
どんな大家でも、高齢となって常に新しいものを取り込んで自分自身をアップデートし続けるのは困難である。それがなぜコトラーには可能だったのだろうか。筆者自身が留学時代に、コトラーから学び、卒業後も感じてきたことを述べてみた。