しかしながら、それ以上のベネフィットをCVCがもたらしていることも、これまでの実証研究は示している。CVCは、実際にそのスタートアップ企業の事業と関連性の高い事業を既に自ら行っており、技術シーズの評価、その事業に適合性の高い人材の発掘、市場性の評価、等々の点において、VCと比較してより高い能力を持っている。そのため、CVCは、スタートアップ企業の事業の成功確率をより高めるし、また、スタートアップ企業の企業価値もより高める。

 創薬ベンチャーの例に戻れば、米国では、VCがベンチャー企業の資金需要をすべて満たすことができる場合でも、その創薬ベンチャーが目指す新薬に近い事業を行っている製薬企業のCVCが少なくとも一社は、複数の通常のVC と一緒に投資することが慣例となりつつあるようだ。その製薬系CVCに上述したような能力の提供を期待することは自然である。

IPOの代替としてのM&Aへの期待


 スタートアップ企業からみた場合、CVCから投資を受けることには、もう一つ魅力がある。昨今、金融危機が頻発する中、IPO市場の不安定性は増しており、上場のチャンスが限られてしまう場合や、また、IPO市場での企業価値評価が必ずしも期待するレベルにならない場合も多い。

 そのため、IPO以外のエグジットとしてのM&Aに対する期待は起業家の間で大きくなっている。CVCからスタートアップ企業が投資を受ける場合、起業家はそのCVCの親会社である事業会社が自分たちに大きな興味を持っているのではないか、近い将来うまくいけば買収してくれるのではないか、という期待を持つ場合は多い。90年代に起業家が事業会社に抱いていた嫌悪感から様変わりした。

 しかしながら、筆者が2014年8月に米国サンディエゴでクアルコムのCVCであるクアルコム・ベンチャーを訪れた際に聞いた話では、彼らの投資先を実際にクアルコムが買収した例はほんの数例とのことであった。自社で買収したいと考えていても、価格面などで折り合いがつかず断念した例もあるようだ。そうだとすれば、スタートアップ企業も、M&A対象として認知されるだけの事業の成功(あるいはかなり確実な期待感)があれば、必ずしもCVCの親会社だけではなく、多くの企業が買収に興味をもつ、というのが現実なのかもしれない。

 

【注】
Dushnitky, G. and J.M.Shaver. 2009. "Limitations to Inter-Organizational Knowledge Acquisitions: The Paradox of Corporate Venture Capital" Strategic Management Journal, 30(10): 1045-1064.