ITバブル崩壊、そしてリーマン・ショック

 しかしながら、90年代のVCが先導したITセクターの活況は、典型的なバブルであった。当時のビジネスモデルで今も生き残っているものは、アマゾンなど数えるほどしかない。その結果、当然ながら、多くを投資したVCも傷ついた。

 VCの世界でも、ワインと同じように当たり年(Vintage Year)という言葉がある。ある特定の年に投資したファンドのリターンが高い時にその言葉が使われるが、逆に、特定の年に投資したファンドのリターンが極端に悪くなる場合も当然ありうる。非常に高い価格で投資し、また多くの投資先企業がうまくいかなかった結果であるが、それが、90年代後半に投資したVCファンドで軒並み生じてしまった。

 VCファンドの投資期間は通常10年である。つまり、90年代後半に設定されたファンドは2000年代後半に期日を迎える。この時期のファンドは、ちょうどまさに当たり年の真逆となり、多くのVCファンドが機関投資家を満足させられるようなリターンをあげられなかった。VCというビジネスは、過去の投資の実績の良し悪しが、次のファンドを組成できるかどうかを決める、いわゆる「評判」のビジネスだ。また、VCファンドにLP(リミッテッド・パートナー)として投資する機関投資家からみれば、VCファンド以外にも多くの投資対象がある。必ずしも、一定の割合をVC投資に向ける必要はないのだ。その結果、90年代後半に組成されたVCファンドの多くは、次回の資金調達ができない状態に陥り、マクロ的にもVCへの資金の流れの蛇口はほぼ閉められた。

 加えて、2000年代後半、米国ではリーマン・ショックという大きな金融危機が襲いかかり、金融市場全体の機能が大きく阻害された。このITバブルの崩壊、リーマン・ショック、という一連の流れのなかで、ハーバードビジネススクールのJosh Lernerの言葉によれば、「VC投資はほぼ瀕死の状態」に陥ったのだ。

CVC投資による資金提供の補完

 2000年代を通じて資本市場が頻繁に危機に見舞われるなか、機関投資家の資金を原資としたVCによるスタートアップ企業への資金提供機能は、大きく低下した。それを補完するように存在感を大きくして来たのがCVC投資である。

 まず、CVC投資の原資を提供するのは親会社の事業会社である。そのため、VCファンドのように、GP (ジェネラルパートナー)であるVC会社と、LP (リミッテッドパートナー)である機関投資家の間にある緊張関係は存在しない。