教育産業に変革の波を起こしているムーク(MOOC:大規模オンライン公開講座)は、ビジネススクールにどんな影響を及ぼすのだろうか。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールの調査によれば、既存のプログラムから受講生を奪うよりも、むしろビジネス教育の裾野を広げることでチャンスをもたらしているという。
ここ数年、ビジネススクールの運営者たちは大学の職員と同様に、ムーク(MOOC:Massive Open Online Courses)をめぐる心配を抱えている。低価格で受講できる大規模公開オンライン講座という新たな選択肢が、従来の自分たちのビジネスモデルを脅かすのではないかと懸念しているのだ。
名門ビジネススクールが、コーセラ(Coursera)などのプラットフォームを通じて自分たちの講座を公開し始めた。複数の講座を学ぶことで、いまや名門校のMBAと同等の教育が無料で受けられる、と評論家らは指摘する。また、コスト削減を重視する企業が、幹部教育をビジネススクールからムークへと移行していくにつれ、従来の幹部向けプログラムは破壊的変化を被るだろう、とする意見もある。幹部教育はビジネススクールにとって重要な収入源だ。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールでは、幹部教育が年間収入の約20%を占めている。ハーバード・ビジネススクールでは26%、IESEビジネススクールにいたってはほぼ半分である。
ムークがビジネススクールに取って代わるとの心配を裏付ける、十分な根拠はあるのだろうか? その答えは、ムークの受講生次第だ。彼らの経歴が、従来のMBA受講生や幹部向けコース受講者の経歴と重なるのであれば、明らかにビジネススクールにとって脅威となるだろう。しかし我々のデータは、そうではないことを示している。少なくとも現時点では、名門校が運営するムークが既存のプログラムを脅かすことはなさそうである。ただしムークは、従来のビジネススクールの講座を受けることがかなわなかった人々を惹き付けているようだ。
ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ペンシルバニア大学のムーク受講生に関する調査報告はいくつかあるが、ビジネス系のムーク受講生だけに的を絞った調査は、これまでに1つもなかった。そこで我々は、ペンシルバニア大学ウォートン・スクールが開講した9つのビジネス系ムークを受講した、87万5000人あまりの生徒のデータを分析した。この調査には人口統計学上のアンケートに対する6万5000件以上の回答も反映されている。9つのコースには、MBAの主要科目である会計、ファイナンス、マーケティング、オペレーション管理に加え、ゲーミフィケーションやグローバル・スポーツビジネスなども含まれる。これらのムーク講座が既存の講座と生徒を奪い合っているようには見えない。しかし少なくとも、ビジネススクールが強く欲している新たな3種類の受講生たちを獲得しつつあるようだ。
1.アメリカ国外の受講生
ウォートンのデータでは、オンラインのビジネスコースに登録した人の78%がアメリカ国外在住だった。一方、2012年時点での幹部向けMBAプログラム受講者のうち、アメリカ国外出身者の占める割合は平均でたったの14%だった。パートタイムについては、プログラムの種類にもよるが10~32%。2年制のフルタイムMBAでは45%だったが、ムークの世界的なリーチにはとうてい及ばない。