従来のどのビジネス教育プログラムも、ムークほど世界中から受講者を集めていない。ムークがきわめて大規模なスケールで運営されていることを踏まえれば、それもうなずける。

 一方、ムークはビジネススクールにとっても大きなチャンスとなる。ムークによって未開拓の市場に進出できるからだ。事実、国外にいるウォートンのムーク受講生のほぼ半数が、開発途上国の在住であった。

 開発途上国のビジネスパーソンは、質の高いマネジメント教育を受けるための選択肢が限られている。サハラ砂漠以南のアフリカで、AACSB、AMBA、またはEQUIS(マネジメント教育を評価する国際認証機関)の認証を受けたビジネススクールはわずか5校にすぎず、そのすべてが南アフリカ共和国にある。だから世界基準の教育を受けられるムークを選んでいるのだ。

2.在米の国外出身者
 アメリカ在住の受講生についても、ムークと従来のビジネススクールとの間には大きな違いが見られる。まず、ビジネス系ムークの受講生の中では、アメリカ国外で生まれ現在アメリカに住む、高学歴の人々が圧倒的に多い。ウォートンのビジネス系ムークをアメリカで受講した生徒のうち、国外生まれの人の割合は35%に上り、その中の54%は大学院の学位や専門学位を取得している(ちなみにアメリカの全人口のうち、国外生まれの割合はわずか12.9%)。ムークの受講者は総じて学歴が高いが、国外生まれの在米受講者が上級学位を取得している割合は、国内生まれよりも高い。

 在米、高学歴、国外生まれの受講者のうち、17%(6人に1人)は失業中だった。これはアメリカ生まれのムーク受講生の失業率、13%よりも高い。名門校の幹部教育コースを受けられない人々が、ムークで勉学に励んでいることが、ここでも浮き彫りになった。失業者にとってムークは、求職の範囲を広げるために資格やスキルを獲得する1つの手段となっているのだろう。

3.一部のマイノリティ・グループ(URM)
 ビジネス系ムークを受講している第3の新たなグループは、URMと呼ばれるマイノリティの人々だ(underrepresented minorities:アメリカで、人口比率に対して高等教育を受ける人の比率が少ない民族を指す教育用語として使われる。アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人、ネイティブ・アメリカンなどが代表的とされ、アジア人は含まない)。ウォートンのビジネス系ムークでは、アメリカ人受講生の19%がURMに属する。一方、アメリカの名門ビジネススクール9校で、従来型のMBAプログラムを受講したURMは全体の11%だった(英語記事)。パーセンテージではなく絶対数で見ても、URMの受講者はオンライン講座のほうが圧倒的に多い。名門9校での11%は、人数で言えばわずか315人だが、ウォートンのビジネス系ムークを受講した19%のURMは、人数にして16万6552人に上るのだ。

 ビジネススクールは上に挙げた3グループに属する人々、つまりアメリカ国外(特に開発途上国)在住者、国外生まれのアメリカ在住者、およびアメリカ国内のURMを、獲得しようとしている。GMACが実施した2012年のビジネススクールへの出願傾向に関する調査によると、これらの人々は、ビジネススクールにとって特別なターゲットになる可能性が最も高いグループに含まれていた。オンラインの公開ビジネスコースは一斉に、このグループの人々を獲得しつつある。ムークで十分な教育を受けた彼らが、やがてはフルタイムおよび幹部向けMBAコース受講者の予備軍となるかもしれない。