ビジネス系ムークが唯一後れを取っている領域は、女性の受講生の獲得だ。MBAプログラムへの出願者のうち、女性が占める割合はいまや40%以上だが、ビジネス系ムークでは32%に限られていた。BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)における女性のビジネス系ムーク受講者は23%にまで下がる。そして開発途上国の女性は男性に比べて、従来型のビジネス教育を受けるうえでいっそう大きな壁に直面している。ビジネススクールはこの女性層に対して丹念にマーケティングを行えば、新たな生徒を大量に獲得するチャンスとなるだろう。

 ビジネススクールがムークを活用してより多様な人々にリーチしようと望むなら、ムーク受講生の動機をもっと深く理解するよう努める必要がある。たとえば、ムークに関するこれまでの議論では、修了率の低さが問題視されてきた。実際、ウォートンのビジネス系ムーク受講生のうち、開始から8週間後に受講を続けていた人の割合は12人に1人だった。また、コースの教材と評価をすべて完了したのは、わずか5%にすぎなかった(非ビジネス系コースの3%をわずかに上回ってはいる)。さらに、ムーク修了者は男性、高学歴、就労者、OECD加盟国在住者、に偏っている。アメリカ人の修了者は白人が多い。

 この結果は表面的には、ビジネススクールの教育の多様性を高めるムークの可能性を否定しているように見える。しかし多くの受講生にとって、オンラインコースを修了することが最も重要な成果ではないのだ。たとえば、ペンシルバニア大学の9つのビジネス系および非ビジネス系コースについて実施された受講前のアンケートでは、修了証をもらうことが「きわめて重要」または「とても重要」と回答した人の割合は43%にすぎなかった。無料オンライン講座のエデックス(edX)の受講者も同様で、修了証がきわめて重要と答えた人は27%のみだった。

 ビジネススクールはこの事実を踏まえ、有料で修了証を出すというビジネスモデルから離れなければならない。代わりに、このような学習者たちが望む目標(それがいかなるものであれ)により見合った形で教育を提供すべきである。それは、講座を月単位のサブスクリプション制やフリーミアム(基本的には無料、一部講座を有償で提供)に移行する、といった単純な方法かもしれない。あるいは、オンラインにおける「講座」の内容とはどうあるべきかについて、より抜本的に考え直すことかもしれない。

 オンラインの公開ビジネスコースは、既存のビジネススクールのコースや幹部教育コースと生徒を奪い合わず、いまのところはビジネス教育全体の裾野を広げている――これが、我々の調査で明らかになったことだ。黎明期のいまでさえ、ウォートンのビジネス系ムークは、ビジネススクールが欲していたグループを獲得している。すなわち先に述べた、アメリカ国外の専門職従事者、国外生まれのアメリカ在住者、および一部のマイノリティだ。

 ムークが従来型の高等教育に破壊的変化をもたらしているのは間違いない。ビジネススクールは通常の大学と同様、変わりゆく環境に戦略的に適応する必要がある。しかしムークによる破壊は、必ずしも皆が心配しているような「ビジネススクールに対する脅威」とはならないだろう。実際のところ、むしろ新たなチャンスのように思えるのだ。


HBR.ORG原文:MOOCs Won’t Replace Business Schools — They’ll Diversify Them June 3, 2014

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ゲイル・クリステンセン(Gayle Christensen)
ペンシルバニア大学 ペン・グローバルのエグゼクティブ・ディレクター。

 

ブランドン・アルコーン(Brandon Alcorn)
ペンシルバニア大学 ペン・グローバルのプロジェクト・マネジャー。

 

エゼキエル・エマニュエル(Ezekiel Emanuel)
ペンシルバニア大学のグローバル活動担当バイス・プロボスト。医学部医療倫理・保健政策学の学科長も務める。