数年前、我々はネットフリックスの創業者兼CEOのリード・ヘイスティングスを非公式の会合に招き、破壊的変化について話してもらったことがある。これは、人材マネジメントの取り組みを詳述した同社のパワーポイント資料がインターネットで広がり話題を呼ぶ以前のことだ(これは創造的破壊につながる文化の築き方を記した資料として、今日でもきわめて有効だと思う)。当時は、まだブロックバスターが同社の有力な競合相手であった。その会合でヘイスティングスは、大きな変革の取り組み――同社にとって必然であった、配送によるDVDレンタルからストリーミング配信への転換なども含む――について持論を語ってくれた。

「私は経営陣と役員会に、こう強調しました。我々が直面しているリスクは、技術的に時代遅れになることだ、と。それこそが最大のリスクなのです。商品にちょっとした欠陥があったり、財務情報に誤りがあり修正するといったことは、小さなリスクです。もちろんいいことではないですが、企業が倒産してしまうほどではない。技術の不足、あるいはビジネスモデルを変革できないことで、企業は命運を絶たれてしまうのです。したがって、もし企業が賢明な"価値の番人"であろうとするならば、最大のリスクに焦点を合わせて最適化しなければなりません」

 企業は、現在の事業を強化する投資と、将来の事業を創出するための投資をバランスよく行う必要がある。新たな成長への投資は長期的な時間軸で評価しなければならない。また、そうした投資に付きものの高い不確実性に対処するために、従来とは違う経営手法を適用する必要もある。

 ポートフォリオ理論には反対する人もいる。しかし、「分散化はリスクを減らし、ポートフォリオ全体の有効性を高める」という基本的なロジックに異議を唱える人は少ないだろう。あなたは馬車用ムチだけを最も効率よく製造している企業、あるいは製氷事業だけで大成功している企業の名を挙げられるだろうか。すでに淘汰されているのだから、覚えているはずもない。

 事業ポートフォリオの多様性を保つための投資を減らせば、業界で起こる破壊的変化に後れをとるリスクが高まる。その変化はおそらく、自社のビジネスモデルで想定している以上に速く進み、事業に壊滅的な影響を及ぼすことになる。ストラテジストの誤りに騙されてはいけない。


HBR.ORG原文:The Strategic Mistake Almost Everybody Makes February 21, 2014

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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイトのマネージング・パートナー。同社はクレイトン・クリステンセンとマーク・ジョンソンの共同創設によるコンサルティング会社。企業のイノベーションと成長事業を支援している。主な著書に『イノベーションの最終解』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(ジョンソンらとの共著)などがある。