では、前例主義はどのような条件下で蔓延しやすいのだろうか。行政のように、競合が存在せず、画期的な成果を出すことよりも、決められた手順通りにやることに重きが置かれ、失敗をしなければ順当に出世していけるような組織では、「失敗回避バイアス」が働くようになる。「責任を回避したい」という関心(目的)を持つ人にとって、前例主義は非常に都合がよい。なぜなら前任者達が連綿と続けてきた前例にならって仮に失敗しても、「前例通りやったのですが」と言い訳できるからだ。そのため、「失敗回避バイアス」と「責任回避バイアス」の強い組織で、前例主義は非常によく機能し、蔓延することになる。
評価基準を変えれば、企業風土は変化する
では、前例主義が蔓延する状況はどのように変えれば良いのだろうか。もしあなたが組織を経営できる立場にあるならば方法はある。一つは「成果を出さないが失敗しない人」よりも、「多少失敗しても成果を出す人」のほうを評価する評価基準を設けて、その通りに評価人事を実行することである。「失敗しないこと」よりも、「成果を出すこと」の方に重み付けをすれば、組織全体に「達成バイアス」がかかることになる。そして前例がどうあれ、成果が出なければ認めないという組織風土が形成されれば、自ずと前例主義はなりを潜めていくだろう。
つい先日広島県の湯崎英彦知事の要請により、広島の土砂災害の現地視察と、今後の対応についていくつか提言させていただく機会があった。湯崎知事はスタンフォード大学でMBAを取得しており、県庁の職員いわく「被災地にもどの職員よりも足繁く通っていた」そうで、話していても非常に合理的でバランス感覚に優れた方という印象を受けた。興味深かったのは、知事との面談が終わった後、県庁の職員が「今まではやることをやっていればよかったが、湯崎知事になってから、『その結果どうなったか』と、成果を問われるようになった。実際、行政にとっては一番苦手だったところだが、いつも『それで、その結果社会は変わったの?』と聞かれるため、成果を出すということが組織全体に浸透してきた」といっていたことだ。これはまさに組織の「達成バイアス」を高めた事例といってよいだろう。
さてしかし、そのように「上」から組織を変えられる立場にある人は限られているのが現実だ。では、「失敗回避バイアス」の強い上司のもとで、「下」から新しいアイディアを通すにはどうすればよいのだろうか。