イノベーションによって競争のルールが瞬時に変わることを、アクセンチュアは「ビッグバン型破壊」と呼ぶ。出版やGPS機器、決済など多くの業界が経験したこのような変化の波は、保険業界にも押し寄せている。既存企業に必要なのは、デジタル化による武装にとどまらない新たなビジネスモデルの創出だ。
今日ではほぼすべての業界が、デジタル化の影響を受けている。そして我々アクセンチュアが呼ぶ「ビッグバン型破壊」を被る可能性にもさらされている。
ビッグバン型破壊とは、業界の外からやって来た破壊者が、競争のルールを一変させるイノベーションによって、一夜にして製品ライン全体を創造する(あるいは、市場全体を破壊する)ことだ。新規参入者たちはスマートフォンやビッグデータ・アナリティクス、クラウド・コンピューティングといった技術的イノベーションのおかげで、質の高い市場情報にアクセスし、製品・サービスを広く行き渡らせることがきわめて容易になっている。古いシステムや実店舗のネットワークを抱えていない場合は特にそうだ。新種のサービスは短時間で、試験から大規模展開、そして市場での大々的な採用へと至る。地位を確立していたはずの既存企業があっという間に脱落していく。モバイル用のGPSアプリがナビゲーション機器の市場を瞬く間に席巻したのが、その好例だ。
破壊的変化を最も被りやすいのは、情報を基盤としたサービスを扱い、それらをデジタルで提供できる業界だ。その典型が保険業界である。
我々の推計によると、今後1年間で最大4000億ドルの保険料が、業界内で移転する。我々が世界各国で行ったアンケートでは、3分の2以上の顧客が、保険会社以外から保険商品を購入することを検討すると答えた。そして23%が、グーグルやアマゾンといったオンラインサービスのプロバイダーからの購入を検討すると答えた(アクセンチュアの英語サイト)。
業界外の企業はすでにこの傾向に対応しており、デジタルを通じて保険を扱う実験を行っている。中国の2大インターネット企業、テンセントとアリババは最近、中国平安保険と組んで保険商品をオンラインで販売すると発表した。グーグルは2011年、保険商品比較サイトのビートザットクオート・ドットコム(BeatThatQuart.com)を買収し、イギリスとドイツ、フランスで保険商品の価格比較サイトを立ち上げた。
生命保険と退職準備の分野では、ラーンベスト(LearnVest)などの新興企業が、個々人に合わせたアドバイスをオンラインで提供している。価格は固定で、中流層であれば手が届く程度だ。ラーンベストの顧客は資格を持つ専任のファイナンシャル・プランナーに相談でき、資金計画、ローンの最適化、投資の配分など、金融資産の管理や金銭面の目標達成に力を貸してもらえる。
もちろん、市場調査と販売力だけで保険会社になれるわけではない。また、新規参入企業には規制という高い障壁があり(ただし乗り越えられないほどではないが)、特に自己資本に関する要件は厳しい。加えて、多くの保険会社は何十年という時間をかけて、知名度と信頼性の高いブランドを築いてきた。他社が複製しにくい重要な「ハード」資産もある。保険金の支払いを支える大規模な投資ポートフォリオや、複雑なバックオフィスのシステム、専門知識などだ。