しかしこうした資産も、変化する顧客の需要に合わせて保険会社がデジタル面での能力を開発しなければ、価値を失うだろう。他業界のサービス提供者と同様に保険会社も、単なる商品販売から「価値ある体験」の提供へと戦略を移行させる必要がある。我々の調査では、顧客は個人的なニーズに丁寧に対応したアドバイスや補償内容に、より多くの金額を支払おうとすることが示された。また、顧客はリスクに対する「保証」だけではなく、リスクを「管理」するためのサポートも求めていることがわかった。こうしたニーズに応える意志のある保険会社は、ネット接続機器の普及や「モノのインターネット」(IoT:Internet of Things)などから新たなチャンスが得られるはずだ。

 新しいものではないが、テレマティクス(主に車載情報システムを指す)や利用ベースの保険も、顧客が個人データの収集に対する容認度を高めるにつれて、今後数年で急速に伸びるだろう。イギリスのオンライン保険会社、インシュアザボックス(Insurethebox)はテレマティクスを用いて顧客の運転情報を収集し、安全な運転をする人には保険料を優遇している。同社はこのサービスを2010年に開始してから3年で、20万人の顧客を獲得した。

 走行距離連動型保険(Pay-as-you-drive)は、保険会社と顧客の連携がより緊密になっている好例だ。顧客が情報を提供し、保険会社がよりよいサービスと保険料の引き下げを提供する。スマートホーム(ホームオートメーションで制御された住宅)は、火事や水道管の破裂といった、セキュリティ上の緊急事態や身体的な危機が発生した際に警報を発することができる。ステートファーム保険は2013年末に、セキュリティ会社のADTと提携して、保険契約者にホームセキュリティのサービスを特別価格で提供すると発表した。それを導入した顧客は、住宅保険料の引き下げを受けられる。ケニアには、天候観測所を利用して天候指標に連動した保険を農家に提供するサービスがある。このシステムによって保険会社は、観測所からの天候データに基づき自動的に補償を支払うことができ、コストのかかる農場訪問の回数を減らすことができる。

 保険業界、そして他のあらゆる業界の経営陣にとって、デジタルによる破壊的変化について論じるべきは「もし」ではなく、「いつ」である。業界内外の競合企業は、革新的な技術を用いて顧客のニーズにより見合った商品を送り出している。経営陣はその先手を打たなければ、公衆電話と同じ運命をたどるリスクに見舞われるだろう。

 たいていの企業は、「デジタル化」をすでに進めている。すなわち、デジタル技術を用いて自社の効率化を図り、顧客へのサービスを向上させている。次のステップとなるのは「デジタル展開」、つまりデジタル技術を用いて、新たなビジネスモデルや製品・サービスを創造することだ。それは従来の事業の枠を超えるものであってもいい。既存の大企業は、デジタル技術がチャンスとなることを認識し、的確にデジタル展開を行うことにより、生き残る可能性を手にできる。そしてみずからが破壊者となって、自社が創造した新しい環境で繁栄することさえ可能になるのだ。


HBR.ORG原文:Insurance Isn’t Safe from Digital Upheaval  July 4, 2014

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ジョン・M・クザーノ(John M. Cusano)
アクセンチュアのシニア・マネージング・ディレクター。グローバル保険プラクティスを担当。