ウォール街の巨大な権力

〈ボーイング787〉の就航は、大幅なコスト超過やバッテリーの出火問題に見舞われて大きくつまずいた。どんな製品にも技術的な問題はつきまとうとはいえ、〈787〉の場合に衝撃的だったのは、まさにウォール街が企業幹部に勧めるような意思決定が、問題の原因だったことだ。

 1997年にマクドネル・ダグラスと合併する前のボーイングは、エンジニアリング重視の企業文化が根づいており、新型機の開発のために社運をかけて大胆な投資をしてきた。かたやマクドネル・ダグラスはリスク回避志向が強く、コスト削減と財務パフォーマンスを重視する企業だった。合併後は後者の企業文化が支配的となったため、ボーイング出身の古参エンジニアの反対にもかかわらず、〈787〉の開発ではアウトソーシングの比率が過去にない水準にまで高められた。純資産利益率(RONA)を最大化させたいがための方策に反発した彼らの声は、押し切られたのである。

 アウトソーシングによってボーイングの貸借対照表に記載される資産は減ったものの、〈787〉のサプライチェーンは複雑化し、航空機に求められる高度な品質を満たせなかった。その結果、エンジニアらが危惧した通り、開発は大幅に遅れてコストも超過した。