「Me-Too戦略」から「差別化戦略」への転換
意気込んでローソンに乗り込んだ新浪氏だったが、すぐに壁にぶつかった。それは業界リーダー・セブン-イレブンの後追いをしようとしたためである。日本型コンビニのビジネスモデルを創り出したのはセブン-イレブンである。そればかりか他社に先駆けて継続的にモデル革新を行ってきたのもセブンだった。したがって同業他社はセブンの戦略、戦術を後追いする傾向が強かった。いわゆる「Me-Too戦略」である。
実際のところ新浪氏も社長就任時には、ローソンの社員たちに向けてこう言った。「同じコンビニじゃないか。強者であるセブン-イレブンを徹底的にベンチマークし、その強みを学ぶところから始めよう」「セブンにできていることがなぜできないのか。効率の悪い店はどんどん閉店すればいい。そのうえで、コンビニ業界のベストプラクティスをとにかくマネすればいいんだ。できないのなら、何としてもやらせればいい」
ところが現場を廻ってみると、皆ヘトヘトになっていることに気付く。ダイエー傘下の時代から「なぜセブンにできて、お前たちはできないんだ」といわれ続けて、社員は辟易としていたのだ。出会う社員たちの誰もが、自信を失い萎縮していた。セブンは圧倒的首位であり、ローソンはセブンの追随者にすぎない。Me-Too戦略をとるローソンと業界トップのセブンが並んでいたら、セブンを選ぶだろう。すべてにおいて進んだセブンを選ぶ方が、リスクの少ない無難な選択だからである。
ここで新浪氏はやっと状況を理解し、ローソンのやり方を本気で変えるしかないと決心する。「ローソンの目指すべき強さとは何か」を必死に考えた。全面戦争を挑むのではなく、トップとは異なる差異のポイントを明らかにし、そこに経営資源を集中投下して、「局地戦」には勝つという戦法である。いわゆる「差別化戦略」である。トップ企業のように全方位に展開できないなら、差別化要素をハッキリさせて消費者にアピールし、限られたリソースをそこに集中しつつ、「局地的な勝ち」を重ねていく。どうしても勝てないのなら、イノベーションによって「戦いのルール」を変えてしまう。
この戦略の延長線上で、例えばナチュラル・ローソンやローソンストア100などが生み出されていった。またおにぎりやデザートなどで尖った商品性を打ち出していった。やがてヒットがいくつか生まれ始めた。チェーンストアは均質化された商品やサービスを多店舗展開することで、「規模による効率」を手にしようとする。しかし新浪氏はそのような常識にとらわれず、均質性を犠牲にしてでも様々な店舗・業態を開発していった。ローソンの業績は新浪氏が社長になって数年はあまり改善しなかった。2008年には三菱商事はローソン株の下落で、850億円ほどの減損損失(のれん代の減損)を計上したほどである。しかし差別化戦略が浸透するようになって、ここ数年やっと業績が上向いてきた。親会社である三菱商事は、その間じっと待ち続けたのである。