先述したようなユーザーの変化は、企業にとってソーシャルネットワークの活用法を考え直すチャンスである。賢明な企業はこれを機に、顧客と新たな関係を築き上げるだろう。
ただし、良好な関係は信頼がなければ成立しない。企業はまず、この5~10年間のソーシャルメディア・マーケティングで醸成されてしまった顧客の不信感を、払拭することから始める必要がある。エローのマニフェストでも明示されているこの不信感は、単にプライバシーの侵害やしつこい広告のみならず、オンラインのやり取りやインターネット空間がすっかり商業化されていることに対して向けられている。
企業はブランドのアカウントや広告代わりの「コンテンツ」を使って、エローに強引に割り込むような真似はすべきではない。オフラインの世界に書店と図書館があるように、オンラインの世界にも広告と相性がよいネットワークと、非商業的な空間の両方が必要なのだと認識しなければならない。アルゴリズムやターゲット広告に頼って顧客の財布からお金を引き出すのではなく、顧客のオンライン生活にどう価値を届けられるかを考えるべきなのだ。
一方、ソーシャルネットワークの一部で広告が歓迎されないとはいえ、必ずしも商業的なものすべてが嫌われるとは限らない。顧客は、単なる宣伝ではない何かと関わることを求めているのだ。たとえば顧客を巻き込んで商品を共同開発してもよい。顧客が共感しブランドとも共鳴するテーマについて、有意義な対話を募るという方法もある(例:ダブが展開する、女性の自尊心向上キャンペーン)。顧客とパートナー関係を築いて彼らのニーズに合った商品やサービスをつくり出したり、所有物を自分と似た価値観を持つだれかに販売したい顧客をサポートしたりすることも可能だ(コラボレーション型経済に関する英語サイト)。こうした手法によって、企業はSNSを単なる広告媒体として扱うのではなく、ソーシャルネットワーク本来の精神に基づいて顧客と絆(エンゲージメント)をつくることができる。
そのような絆は、ソーシャルメディアというドライブスルーにぶらりと立ち寄り、「顧客エンゲージメントを2人前」と注文して得られるものではない。顧客との絆を強めるプラットフォームは、既存のソーシャルネットワークに任せていても築かれないのだ。自社と顧客の両方にとって有益な環境を築き、有意義な対話を集める方法を見出す必要がある。そしてエローの突然の人気が示しているように、そのプラットフォームは「顧客のデータと関心は最大の敬意を持って扱われている」と理解される形で築くべきだろう。
手始めにエローのマニフェストを、以下のように企業側に当てはめて考えてみるといいだろう。
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企業と顧客の関係は、フェイスブックやツイッター、グーグルといった他社に所有されています。
企業と顧客とのやり取り、獲得する顧客、投入する広告はすべて追跡・記録されデータ化されて、競合企業もしくはソーシャルネットワーク自体のために活用されています。企業は広告費、カスタマー・リレーション担当チーム、最高のコンテンツクリエイターを、他社が支配するソーシャルネットワークに捧げています。企業はその顧客ですが、企業自体の顧客は他社に売買される商品なのです。
もっとよいやり方があるはずです。ソーシャルネットワークは、顧客エンゲージメントのツールになりえるはずです。顧客をだましたり、強制したり、操ったりするツールではなく、顧客とつながり、創造し、企業と顧客が一緒に成し得ることを祝福する場所なのです。
HBR.ORG原文:Ello Is a Wake-Up Call for Social Media Marketing September 26, 2014
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アレクサンドラ・サミュエル(Alexandra Samuel)
マーケットリサーチの技術を提供する企業、ビジョン・クリティカルのソーシャルメディア担当バイス・プレジデント。著書にWork Smarter, Rule Your Emailがある。