新規事業のアイデアをプレゼンする時には、データで武装するのがセオリーだ。しかし、既存のデータに加え「実験で導き出した、自前のデータ」があれば、説得力が格段に増すはずだ。アンソニーがその方法を、事例とともに説明する。

 

 さあ、いよいよだ。日程を調整し、真の決定権を持つ関係者全員を会議室に集める準備を整えた。イノベーションのアイデアを実行に移すためにリソースが得られるのか、それとも否決され、白紙に戻ってやり直すことになるのか、もうすぐ判定が下される――。こんな時、どうすれば提案に最大の説得力を持たせることができるだろうか。

 できるだけ多くのデータで武装してプレゼンに臨む、というのが一般的なやり方だろう。市場動向を分析した各種のアナリストレポート。投資に対する十分なリターンを示す詳細な収支予測の表。いかに準備万全であるかをアピールするような、情報がぎっしり詰まったパワーポイントのスライド。

 データを集めて説明すること自体は悪くない。ぜひそうすべきだ。だが、提案する事業コンセプトが非常に革新的なものである場合、分析的なアプローチのみで正しさを証明するのは難しい。なぜなら、データが示しているのは過去に起こったことであり、これから起こりうることではないからだ。

 革新的なアイデアの正しさを示したいならば、もう1歩前に踏み出さなくてはならない。つまり、データをただ集めるだけではなく、新たなデータを自分で生み出す必要がある。アイデア実現のためにクリアすべき不確実要素を少数特定し、実験を行って検証しておくのだ。そうすることで、自説の正しさを補強し自信を深めることができる。あるいは、大規模なリソースを要求する前に自説の欠陥を明らかにできる。

 とはいえ経験がない人にとっては、そのような実験は大変な作業のように思えるかもしれない。予算や人員の割り当てもなしにどうすればいいのか、と疑問にも思うだろう。幸いなことに、この種の実験にはある程度秩序立った方法がある。

 まず、リソース配分の権限を握る人たちが抱くであろう、最大の疑問を特定することから始めよう。顧客は本当にその製品やサービスを利用・購入したがるのか。そのアイデアは技術的に実現可能なのか。オペレーション上の特定の事情が、成功を妨げるのではないか――。

 最も重大で致命的となりうる問題を明らかにしたら、次は費用をかけずに手早くそれを検証する方法を考えよう。ポイントは、検証したい条件を少ない費用でシミュレーションする方法を見つけることだ。

 1つ例を挙げよう。ターナー・ブロードキャスティング・システム(タイム・ワーナーの一部門)は、テレビ番組や映画でCMに入る直前のシーンと、CMに入って最初の広告とをうまく関連づけるという構想を、数年にわたり温めていた。子どもが泥んこになったシーンに続いて洗剤のコマーシャルが流れるところを想像してほしい。こうした文脈のつながりには大きな効果があることは、学術研究でも示されている。広告主に適切な文脈でCM枠を割り当てることができれば、CM料金に多額のプレミアムを上乗せできる可能性がある。