しかし疑問もあった。放送内容とCMをうまく結びつけるシステムに要するコストは、利益よりも高くつくのではないか? また、ターナーが保有する映画やテレビ番組のライブラリーで、広告主にとって効果的な文脈を持つシーンの数が足りなかったらどうなるのか? こうした疑問に、担当チームはどう答えを示したのだろうか。

 チームは憶測に終始せず、夏休みでインターンに来ていた学生たちを2~3週間会議室に缶詰にして、テレビ番組や映画を見てもらった。そして事前に設定したカテゴリーごとに、関連する文脈を持つシーンの数を数えさせた。その結果をごく一部の広告主に見せて反応を探ったところ、熱烈な支持を得たのである。

 この実験から得られたデータが、会議の行方を大きく変えたことは想像に難くない。さもなくば、不備が目立つ机上の計画を説明する羽目になっていただろう。だが独自のデータがあったため、この事業コンセプトは実現可能性があり、潜在的な広告主たちも関心を示すであろうという証拠を示すことができた。最終的にこのアイデアが実現に至ったことは、驚くに値しない。ターナーは〈TVinContext〉と名付けたこのサービスを2008年に開始し、業界で賞賛を受けることとなった。

 できるだけ早い段階でアイデアを検証して独自のデータを得るためには、多少の創造性が必要だ。我々のクライアントのモバイル機器メーカーは、利用者の気分や所在地に応じてカスタマイズしたコンテンツを提供するという新サービスを検討していた。そのようなサービスを望む人、料金を支払ってもよいと考える人はいるだろうか?

 我々はそれを知るために、まだ存在しないサービスについて、安い費用でシミュレーションする方法と人々の関心度を測る方法を考え出す必要があった。まず、フリーランスと企業を結びつけるプラットフォームのイーランス(Elance)を通じて選んだデザイナーと協力し、インターフェースの見本を作成した。次に、サービスの仕組みを説明する2分間のアニメ動画をつくり上げた。その動画のスクリーンショットは、以下のような感じだ。

 この事業コンセプトが顧客に受けるかどうか、どうすればわかるだろうか。もちろん、顧客に見本画面と動画を見せて、「気に入りましたか? それほどでもないですか?」と尋ねる方法もある。だがこの質問だけでは、回答者が実際にサービスを使うかどうか、ましてやお金を支払うかどうかはわからない。そこで我々は、見込み客へのプレゼンを終える時に、ベータ版の最初の利用者として登録したいかどうかを尋ねた。登録するにはクレジットカード番号を我々に伝えるだけでよく、ベータ版のテスト開始時に5ドル引き落とされる仕組みとした。