ペンシルベニア大学ウォートン・ビジネススクールで15年連続人気No.1の講義を担当する、スチュアート・ダイアモンド氏が来日。ピューリッツァー賞の受賞歴もあるトップ・ジャーナリストであり、グーグル、マイクロソフト、世界銀行などを顧客に持つ、交渉術の世界的権威である。本連載では、ウォートン・ビジネススクールOBである神田昌典氏が、交渉術の極意を聞き出す。連載は全3回。(構成/若林希和)
交渉の基本はつながりを探すこと
神田 まずはダイアモンド先生の著書『ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』(集英社)についてお話を伺うことから始めたいと思いますが、よろしいでしょうか。

Stuart Diamond
交渉術の世界的専門家。グーグル、マイクロソフト、JPモルガンなどの多くの優良大企業や、国連、世界銀行などの公的機関に、交渉戦略に基づいてアドバイスしている。ハーバード大、コロンビア大、UCバークレーなどでも講師を務め、現在受け持っているペンシルベニア大学ウォートン・ビジネススクールのMBAコースでの講義は同校で15年連続人気ナンバーワンとなっている。ハーバードでJD(法務博士号)、ウォートンでMBAを(経営学修士号)取得、みずからも弁護士の立場、企業家の立場から、農業からハイテクまで幅広いビジネスを率いている。
ダイアモンド もちろんです。では、まず私の文化的多様性に関する研究について触れたいと思います。研究の結果、文化的多様性というのは、経済や社会心理学などのマクロな分野では意味を持つかもしれないものの、1対1の交渉の場面では意味を持たないことがわかりました。相手がどのような文化的背景を持っていようとも、その人のアイデンティティが何よりも大事なのです。
つまり、自分の家族やそのときの気持ちなど、文化を超えて共通する話題こそが重要です。たとえば、あなたや私の家族に対する思いは国籍を問いませんよね。より良い交渉術のヒントはここにあるのです。これに関する研究は膨大なので、随所で触れたいと思います。
神田 私が理解していたアメリカ流交渉術とはまったく異なりそうです。
ダイアモンド これは、いままで理解されていたどの交渉術とも異なる、数千人から得た情報による最新の研究結果に基づくものです。すでに私の本に掲載されている情報もありますが、未発表の最新データもあります。
神田 非常に興味深いです。つまり、交渉は文化をいとわないということですね。そして、交渉を通して、私たちはみな基本的に同じ人間だということを理解できるようになります。
ダイアモンド その通りです。例を挙げます。私とあなたは異なる文化で育ちました。でも、二人ともゴルフが大好きだとします。交渉の場面では、国籍の違いよりも、二人が共通してゴルフ好きだという事実のほうが大事です。これは研究結果にもはっきりと表れています。何よりも大事なのは、相手と自分に共通する項目を探すことです。
神田 ダイアモンド先生の本にもあるように、交渉で成功したいなら相手との個人的なつながりを見つけることが大事だということですね。スチュアート・ダイアモンド教授による、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』のためのインタビューということで、本日はすでにつながりを感じています(笑)。