だが集合知への疑いを晴らす最大の要因は、ウィキペディアの改訂とバイアスの関係だ。調査サンプルとなったウィキペディア記事は、1件当たりの平均で1924回の改訂が行われていたが、改訂の回数は各記事によって大きく異なる。そして報告によれば、「ウィキペディア記事は改訂の回数が多いほど、より中立的になる傾向がある」ことが判明した。つまり人々が記事に手を加えれば加えるほど、バイアスの度合いが小さくなるのだ。
改訂を重ねればよりよい記事になるというのは、自明のように思えるかもしれない。ずっと以前からオープンソース化のムーブメントを支えてきたのは、「十分な数の目玉があれば、どんなバグも深刻ではない」という合言葉だった。だが実際には、キャス・サンスティーンが最近のHBR論文で説明しているように、「集団は往々にして、その構成員のバイアスを緩和せずむしろ強める」のだ(英語論文)。したがって今回の報告書における、「集合知はオンライン・コンテンツのバイアスに拍車をかけない」という結論は注目に値する。
ウィキペディアの問題は、集合知が中立的な視点に収斂されないことではない。中立に至るまでに多くの編集が必要であること、そしてその種の配慮はすべての記事に向けられるわけではないことが問題なのだ。そしてこれこそ、企業が学ぶべき点であると2人の研究者は考えている。
グリーンスタインはこう語ってくれた。「集合知を活かすには、修正を重ねることが不可欠です。ウィキペディアの調査結果が示唆するのは、大量の改訂、つまり非常に大勢の人々の参加が必要ということです。したがってマネジャーは、クラウドソーシングに伴う作業の多さを甘く考えてはなりません」
一握りの素人が専門家チームに肩を並べるのは無理だろう。したがって集合知の活用を考えている企業は、できるだけ多くの人を巻き込むことが必須になる。また、多くの参加者がいても、プロジェクトの特定の部分が他よりも多くの注目を受けるものだ。したがってクラウドソーシングによるプロジェクトを担当するマネジャーは、単に協力者たちの全体数ばかりでなく、プロジェクトの各構成部分における関与の度合いにも注意を払うべきだ。確かに「十分な数の目玉があれば、どんなバグも深刻ではない」はしばしば正しい。だが、すべてのバグが同等に注目を集めるとは限らないのだ。
HBR.ORG原文:Wikipedia Is More Biased Than Britannica, but Don’t Blame the Crowd December 3, 2014
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ウォルター・フリック(Walter Frick)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。