投稿された動画の著作権を保持するバイアコムがユーチューブ(その頃はグーグル傘下)を訴えた時、おおむね弁護側が優勢であった。最初に地方裁判所は、グーグル側の主張を認めた。「ユーチューブでは、著作権侵害にあたることがわかった動画はすべて削除した」、および「適用法によれば、ユーチューブが単独で著作権侵害を見つける義務はない」という主張だ。そして控訴審では判決がくつがえる。ユーチューブの経営陣の間で交わされたメールから、同社が著作権侵害を認識していたことは明白であり、責任は免れないとされた。しかしその後の訴訟では、地方裁判所は再び、「ユーチューブは著作権侵害を認識していたとは法的にはいえないため、責を負わない」との判決を下した。2014年3月、バイアコムは訴えを取り下げ、報道によれば和解金は支払われていないという。こうしてユーチューブの戦略がまかり通ることとなった。つまり、訴訟になったとしても、著作権者の懐には賠償金が実質的にほとんど入らないと知って、著作権侵害のコンテンツを意図的に放置するばかりか、投稿を促しさえするというものだ。

 ユーチューブのこうした姿勢によって、オンライン事業の起業家は、比較的明白な法規定すらないがしろにするようになった。たとえば、ポートランド市の民間有料輸送サービスに関する規制(第16.40章)では、タクシー業に対し、許可証の保持、保険への加入、点検の実施、車椅子でも乗車可能であることにくわえ、監視用デジタルカメラの搭載をも義務づけている。同規則の適用対象となるのは、「乗客が目的地と移動経路を決めることができ、その料金が、初乗り運賃、移動距離、待ち時間、ないしこれらのいずれかの組み合わせに基づいて算出される、乗客を有料で運ぶあらゆる車両」とされている。

 つまりここには、タクシーだけでなく、UberX(ウーバーエックス:運転手の個人所有車による低価格帯のサービス)やLyft(リフト)のような、新手の配車サービスの車両も明らかに含まれる。にもかかわらず、これらの新規参入者たちは規則をぬけぬけと無視している。営業用の運転免許も保険もない一般人が、自家用の普通車(白タク)で乗客を運んでいるのだ。

 ユーチューブの動画の例でわかるように、配車サービス会社を規制の無視に追い込んでいるのは、競争圧力だ。UberかLyftのどちらかがポートランドという市場をもしあきらめていたら、もう一方が支配していただろう。そしてあっという間に、ポートランドの住民に対してのみならず外から来る訪問者、そしてポートランドから他へ移動する市民に対しても、かなり有利な立場を得ていたはずだ。両社を違法行為に走らせるのは激しい競争であり、少しでも手をゆるめれば確実に損失を招くのだ。

 2014年12月にポートランド市がUberを相手に起こした訴訟で、交通局局長のスティーブ・ノビックは法の重要性を強調した。「Uberのやっていることは、法律を守る全市民に対する侮辱です。……Uberの違法行為が許されるなら、一般市民が『どの法律なら守らなくても大丈夫だろうか』と普通に考えたとしても、何も言えません」。Uberは次のように反論した。「ポートランド市の規制は、タクシードライバーのみに恩恵をもたらすものであって、料金が必要以上に高く保たれている」。その通りなのかもしれない。だがポートランド市の法規定は、管轄当局によって正式に制定されたものだ。Uberの世界観に従えば、建築基準法が厳し過ぎると判断した建設業者が、基礎工事や補強材の敷設で手を抜くかもしれない。従うべき法と守らなくてよい法を誰かが判断できるのだろうか。